短編たち | ナノ
15
律動をはじめてすぐ、燻るような熱が体と思考を包み込んだ。
「ぁ、あ、んう、」
もはや抵抗することもできない。
意外にも優しい動きと、優しい視線に何度も勘違いしそうになる。
響がみているのは那月くんだから。
俺を抱いても、結局那月くんを見てるんだよ。
だから勘違いなんて、するな、馬鹿。
痛みにすっかり萎えたそこをまたぐちゅぐちゅと音を立てて扱かれ、快感を拾う自分の体に嫌気がさした。
「、っ、締めすぎ、はぁ、っ」
「あ、ぁ、きょ、う、っ、」
頬を微かに染めて息を荒くする響。
見たことない、こんな顔。
こんな状況なのに、響のこんな表情が見れて嬉しいなんて俺は馬鹿じゃないの。
だんだんはやくなる律動。
少しずつ湧き上がってくる快感をどうにかおさえなくてはいけない。
理性が飛んだみっともないところなんて見せられない。
と、唇を噛んだ瞬間響が角度を変えて腰を動かした。
「っあ、やだ、そこ、ぁ」
「ここか、」
思わず悲鳴をあげると響がくっと笑う。だめだって、そんなとこ、すこしの摩擦でイきそうだったのに。
集中的に擦られたらと思うとぞっとする。
やめろと何度も言うが意味もなく、
「あ、っ、やだ、あ、あ、響、響、」
「はぁ、たまんね、」
俺の足を肩に担ぎ、欲に濡れた目をこちらに向けながら律動の早さが増していく。
どうしよう、なにがなんだかわかんない
こんなの知らない、
「やだ、変、むり、やめろっ、」
「は、やめられるわけねえだろ、」
くしゅりと響の手が俺の髪を撫でた。
ああ、それが好きなんだ。
好きだった。
どうしようもなく、好き
ラストスパートかのように激しい律動に、俺の口が塞がることはなく情けない喘ぎ声がひっきりなしに漏れる。
ちがう、那月くんみたいに可愛くない。きもちわるい、こんな声、聞いて欲しくないのに。
唇を噛めばまた最奥を突かれて声を出さざるを得ず、「声出せ」なんて意味わからないことをいわれる。
「響、やばい、もっ、」
「俺も、イきそ、っ、」
お願いだから抱きしめて欲しい。
お願いだから、俺を見て欲しい。
お願いだから俺の名前を、呼んで欲しい。
その手が、俺に触れるだけで泣きたいくらい嬉しいんだから。
「っ、ぁあ、あ響、」
「くっ、」
縋るように抱きつこうとした手は床に押し付けられ、響の目はぎゅっと閉じられているのを見ながら自分の腹に欲望を吐き出した。
中に弾けた熱いものがなんなのかもわからないし、俺の頭を優しく撫でる手がなにかもわからない。
「時雨、」
ただ深く沈んでいく意識の中で、優しい優しい声がそっと俺の名前を呼んだ気がした。
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