短編たち | ナノ


14


う、とか、あ、とか、ひっきりなしに声が出る。
ぐちぐちと音を立てながら響の指が内壁を広げるように動く。

感じたことのない異物感に耐えるために口を手の甲でおさえた。

「はあ、きっつ。那月よりきつい」


「っ、」


前触れもなく指が増やされ、声にならない悲鳴をあげた。
見たくないのに、分かりたくないのに、響の指がもう3本もそこに埋め込まれてるなんて、死んでしまいたい。


「やだ、くるし、こ、わい」


時々響の指が触れる場所が俺を変にするようで怖い。そんなことばれたら集中的にいじられるだろうからばれないようにしなきゃ、と身を引き締めた。


「感じてるくせによく言うな。ほら、萎えてねえじゃん」

「あ、っ、ぁ、」

自分の体がいやだ。
こんな、あさましい。

こわいのに、いやなのに、
でも目の前にいるこいつを嫌いになれない自分が何よりも嫌だ。


「やだ、響、もう、」

「うっせえな、んなに嫌なら俺をその好きなやつって思えばいいだろ」


そんな冷たい色を持った言葉に自分の中がきゅうと締まったのがわかった。
それはもうどうしようもないくらい悲しくて、体が縮こまったのが原因なんだろうけど、
そんな俺の中に気づいた響はまた冷たい目のまま笑う。


「締まったな、今」

「違、う、やだ」

「いいじゃん、利害の一致。ほら。
時雨の好きなやつと今ヤってんだよ」


ちがう、ちがくないけど、
そうじゃねえだろ


「お前の好きなやつの名前呼べばいい、俺も那月の代わりに抱いてんだからいっしょだろ」


「っ」


なつき、となぞるように響が囁く。

まるで愛おしいものを見るように目を細めた響が見えて、思考がぷつんときれた。


溢れたのは涙ではない。
蓋が外れたかのように、心は大泣きしてるのに、じっさいに漏れたのはなんともいびつな笑顔だった。



「那月、那月、」


ずるりと響の指が俺の中から出て行き、代わりに熱く昂ったものがぴたりとあてがわれた。


「なつき、」


那月くんを呼びながら、俺の頬を撫でる。無邪気に笑う響の目は欲すら持っていて、思い込みってすげえとか思った。



「きょう」


ねえ響。
もう俺はたぶんだめだよ。
なにがっていわれたらわかんないけど、すごい心臓が痛いから、もうだめだよ。


「ふ、」


俺はお前が好きなんだもの。
涙はやっぱりでてこない。
出てきたのはちいさな笑い声で、その声に響がぴくりと反応した。


「ありが、と」

聞こえないくらいちっちゃなこえは、やっら。聞こえなかっただろう。

くちを押さえてた手をまっすぐ響にのばした。
ありがとうって、馬鹿みたいだけど。
やっぱだめなんだ、お前のこと嫌えないんだ。
伸ばした手で響のさらりとした髪にふれた、そのまま抱きしめた。


「きょう、」


好きだよ、
馬鹿で那月くんが好きすぎるところも、
ぜんぶ、


ぐぷ、と生々しい音を立てて響のが俺の中に入り込む。

「きつ、はぁ、、なつき、」


「、いた、うぁ、」

「は、っ、ぁ、中熱すぎ」

あつい、くるしい、いたい、もういやだ。ひたすら痛みに耐えて、耳元で聞こえる艶のある声に馬鹿みたいにドキドキして、

おそらくすべて入ったであろうときには頭ん中はぐちゃぐちゃだった。




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