短編たち | ナノ


13


「へえ、時雨こんな身体してたんだ」


いつの間にか床に組み敷かれて、ジャージを脱がされて、俺の大好きな響の手が這い回る。


「やめろ、ほんと、やめて響、」

涙は一滴だけだった。すこし濡れた目元に響は絶対気づかない。

「時雨、俺知ってんだぜ?お前が男しか好きになれねえってこと」

「う、ぁ、っ、」

「だからお前、好きなやつって男なんだろ?」

「やめ、やめろ、やだ、やだ」

「なあ、誰?クラスメイト?」


やだ、やだ。
触られたことも触ったこともない乳首を強い力でつままれて、気持ちいいなんて思わない。

涙は出ないのに悲痛な声が自分でもわかった。

好きなやつ、って
それをお前が俺にいうの?

なんだかもう、笑っちゃいそうだ。


「でもまだ処女だろお前」

「きょ、ほんとに、もうやめて」

「やめねえよ、俺がもらってやるから、初めてってやつ」


そんなの、こんな状況じゃなかったらどんなに嬉しかっただろう。
響は残酷だ。

馬鹿で、無邪気で、ひどく残酷だ。


「やめてとかさっきからうぜえ。勃ってんじゃん。なにがいやなわけ?」

「は、ぁ、やだ、ほんと、に」

ぐりぐりと局部を膝で押されて噛んで抑えてた喘ぎ声が出る。気持ち悪い

全然ちがう、那月くんと全然ちがう。
女の子とも違う。
低めの苦しそうな声なんて聞き苦しいに決まってる。

こんな声、きかれたくない。


「時雨、しぐれ、なぁ」


「あ、っ、待っ、」

簡単に脱がされたジャージのズボン。
性急に入り込んだ響の長い指が直接俺のを扱き始める。

「硬、気持ちいんだろ?」

「やだ、こんな、あッ」

こんなの、

こんな自分が嫌だ。
欲に素直な自分の体が嫌だ。
いやだ、嫌だ

ぐちゅぐちゅとわざと音を立てて扱き、楽しそうに笑う響は、俺が好きな響なのだろうか。

あまりにも冷たい目は、俺のせいなのだろうか。ねえ、響。


「お前だけよがってんじゃねえよ、時雨」


ひたりと、触れたこともない淵を撫でられた時俺は目を見開いたあと、諦めるようにゆっくり閉じる。


こんなときに雨音が聞こえたらいいのに

ふと浮かんだ願いはそんなくだらないことだった。




戻る