短編たち | ナノ
12
すべてを投げ出して部屋を出ようとする俺はいともあっさり響の手によってゆくてを阻まれた。
「なんで怒ってんの?俺、時雨になんかした?」
「さあ、」
してない
してないけど、怒ってんじゃなくて悲しんでるんだ。
こんな近くにいたこと、はたしてあっただろうか。手が熱い。響が触れてるから、そこから熱が伝わるみたいに熱い。
「出てってどうすんの」
「家に帰る」
「そんなの俺が許すと思うわけ?」
「…は?」
は?
思わず俯いていた顔をばっとあげてしまった。
え?なにその言い方。
まるで俺にそばにいてほしいみたいな。
ドキドキし始めた心臓に抑制をかけて、じっくり考え直して納得した。
そっか、そうだ。
俺がいなくなったらもう那月くんは嫉妬しなくなっちゃうかもしれないんだ。
いや、でも女の人を使うっていう最低の手を覚えたなら俺なんていらないはずなのに、やっぱり飯と洗濯と掃除か。
「時雨……」
「え、って、は、ちょ、響」
じっとりと暗いことを考えていたら響の顔がすごく近くに寄っていて、いつの間にか体ごと壁に押し付けられていた。
「、なにかんがえてんの?」
「今日那月とヤってねえから」
「は?」
もう勘弁してよ。
日本語喋ってよこの馬鹿は。
じい、とめをみつめてくる響の目はどろりと濁っていて何を考えてるのか分からない。こわい、意味わからない。
「那月がしたことを俺がしてなにがわりいの?」
「は?那月くんはただ男の人といただけで……っいた、」
「お前さあ時雨、」
結局那月くんかよ、とへこむ間も無くガリ、とみみたぶを噛まれた。
低く冷たい声が俺の名前を呼んで、ぞくぞくと鳥肌が立つ。
よくわかんないけど
やばい
逃げないと、
やばい
「好きなやつでもできた?」
「っ、」
「連れ込みてえならここに連れ込んでいいぜ?それとも家政婦みてえなことしてるって女にバレるのがこえーの?」
思考がぷつんと停止した。
どこかでやっぱり期待してたのかもしれない、俺は。
でもそっか、響は本気で俺なんてどうでもいいってことだ。
そう改めて実感しても涙さえ出ない。
無表情は無表情のままだろう。
「連れ込んでいいしコンドームだって分けてやるから、抱かせろ」
「っ、やめろ、」
最低
最低最低最悪
最低最悪のことを言いながらも悲しそうな表情にうっかり流されそうになる。
「俺だってやることやんねえと気がすまねえんだよ」
「っ、やだ、」
壁に押し付けられたまま、響の手が俺の体を這う。太もも、腹、そして服に入り込んだ手はキュ、と乳首を摘んだ。
「ひ、っいたい、いた、」
ジタバタしても体のサイズが一回り大きい響から逃れられるわけもない。
やばい、こんなの、絶対に嫌だ。
こんなの、
「時雨のそんな顔初めてみた」
「やめろ、響、やだ、」
「うっせえな、」
がぶりと噛みつくように俺の唇を塞いだ響に、出なかった涙がぼろりとこぼれた。
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