短編たち | ナノ



11



「ばかみたい」


ゆっくり考えた。
いろんな気持ちがごちゃまぜになった。

ばかみたい、ばかだ。
ばか、ばか。

泣きたい。大声で、全てを吐き出してそのまま消えちゃえたらいいのに。


「あ?」

「ばかみたいって、言ったんだよ」

このクズ男。
ばかのくせに一途で、一途だから馬鹿みたいなことして、捻くれた愛しか向けられない。


「やりすぎって言ったよね、那月くん傷付けてるって分かってんだよね」


「でも、」


「それになに言ってんの響。歩いてただけでしょ?本当に浮気してるクズのくせにそんなことを問いただすの?」


クズ


なんていう日が来ると思わなかった。
びっくりした顔と、睨んだ目がすこしアンバランスでやってしまったと俺は深くため息をついた。


「時雨、俺に喧嘩売ってんの?」

「そうかもね、でも那月くんの気持ち考えなよ。考えたうえで本当に自分が最低だって気付かないなら俺はもう知らない」


知らない。

俺はずっとおまえの横にいたかったけど、でももういいかもしれない。

向けられない愛情には諦めがついていた。
でも利用されてることすら嬉しかった。
苦しいくらい好きだった。


「時雨、てめえ…」

「もう帰ってよ。俺荷物まとめなきゃ」


那月くんと響は、きっと俺がいなくなれば安定するだろう。
響が変に俺に依存してるからこうなるんだ。

これからはこの部屋に那月くんが済めば良いじゃん。

それだけは、そのポジションだけは譲らないって決めてたけど

もう俺は疲れちゃったから。


「荷物まとめって、なんだよ」

「昨日言ったでしょ。俺はこの部屋を出るんだって」

「は?」


聞いてなかったのか。
そっか、どうでもいいもんな。

鼻がつーんとして、目頭に熱がこもった。


「俺もう寝るから。鍵、持ってんなら戸締りしておいて」


もう全てを投げ出したいから
響が俺の中から出てくれればそれでいいから。

くるりと背を向けた俺に戸惑ったように響が「おい」と声をかける。
ああそっか、夕飯も用意してない。
洗濯機も回してない。

ごめん、失格だ俺。

でももう良いよね、家を出るんだから、もういいよね。







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