短編たち | ナノ


02



「来てたんだ」

自分で来いって言ったくせにこの言いよう。目線を動かせば風呂上がりの水を滴らせた男が一人。

ぽい、と投げられたのは湿ったタオルと「洗っといて」の言葉。


「雨降ってるよ。那月くん泊まってってもらえば」

「そのつもり。夕飯なに?」

「シチュー」

投げつけられたタオルを持ってきたカゴに詰め、ついでに脱衣所に転がっていた2人分の服と下着もつっこんだ。


「んー…」

寝室からかすかに聞こえた声にため息をつくとリビングでくつろいでテレビを見ている友人に声をかけた。


「那月くんおきたみたいだから俺帰る」

「おお、おつかれ」


カゴを持ち、食材のゴミを持ってドアに手をかけた。


響の恋人、那月くんに自分がどう思われているのかはわかっている。

というか響のせいで多大な誤解をされてるわけなんだけど仲良くするつもりは全くないから放置。


響のご飯をつくって、洗濯物も、掃除もして、響がそんな俺のことを外では「家政婦みたいなやつ」と言っていることも知っている。

でも響は那月くんにだけ、まるで俺がとても大切な人かのように話す。

純粋で一途な那月くんが悲しみ、嫉妬してくれることだけを思って、響は残念なイケメンだとおもう。


家政婦と呼ばれる扱いを受けているのに俺が響のそばに居続ける理由はふたつ。


一つは家賃代わり。
実家が遠くて学校まで3時間かかるところに住んでいた俺は一人暮らしの響の家に住んでいる。

といっても響の家は叔父さんが趣味で作ったらしく、変な作りをしていて、二つの家がくっついたような、玄関が二つある家なのだ。

片方に俺が居座り、もう片方に響が住んでいる。唯一繋がっているのは屋根裏部屋だが、その部屋自体物置と化していて入れたものではない。

だから一緒に住んでるとはいえ完全に分離されている。
その居候させてくれる響に家賃はいいから飯と掃除と洗濯と言われたから俺の日課はまるで主婦。



「那月、飯食い終わったらもう一回ヤるからな」

「えー、もう俺疲れちゃったよ」


壁が薄いせいで丸聞こえな会話はざくざくと俺の胸を刺す。


響のそばに居続ける理由、ふたつめ。

俺は残念なことに残念なイケメンである響のことが好きでやまないから。




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