短編たち | ナノ



休日のできごと





「……ねんむい」
「……むい」


ボヤく山瀬と、妙なところからおうむ返しする水瀬。ふたりは仲良くお泊まりした次の日の日曜日、真昼の2時頃にのそのそと起きるのがお決まりである。


その頃には水瀬の姉が仕事でいなくなっていているが、ふたりをげろっげろに甘やかしている水瀬の姉はふたりに朝ごはん兼昼ごはんを作って置いていくのが決まりである。


毎度毎度頭のゆるいふたりのために電子レンジの使い方まで書いて仕事に行く様子からしても水瀬の姉はげろ甘もいいところだ。


「んぁー、水瀬の布団の匂い変わったー」

「ん?んー、……ねむいむい」

「なんか今回の柔軟剤あまぁい」

「ふぁ……山瀬うるさ」

「前のがすきー」

「ん"ー、んとに、うるさい」

「んっ、、」


寝起きはふたりともかなりテンションが違う。テンションというよりよく喋るか喋らないかくらいだが。

山瀬はしゃべる。寝言みたいに意味のわからないことを喋ることもあるし、今回みたいにすこし意味の通るどうでもいいことを喋る。

水瀬は喋らない。というかそもそも起きない。寝起きがとってもとっても悪いのである。意識はあるが寝ている。


だいたいは喋り始めた山瀬の口を水瀬がうるせぇなと思いながらほとんど無意識に自らの口で塞ぎ、本能のままにちゅっちゅれろれろしてるうちに意識がはっきりしてくるのだ。
ちなみにキスの習慣は以前までなかったのにどうも癖になったらしい。タコになるんじゃないのというレベルでこのふたりはちゅっちゅしている。

それはまぁ当たり前なのだ。
『親友なのにキスしないのはおかしい』
つまり逆に言えば親友ならキスはするものだ、ということだ。
水瀬姉の言葉が2人のイチャイチャに滑車をかけていることに間違いはない。


「ん…、ん、ちゅ、……むぅ、み、なせぇ」

「んー、は…ぁ、んむ、」

「ん、ん"、ッくるし、」


いい加減にしろ、と山瀬が水瀬の栗色のさらさらとした髪の毛をキュッと引っ張った。

嫌そうに眉を寄せた水瀬が髪を引っ張る山瀬の手を掴んで山瀬の頭上に縫い付ける。


だいたいこれもいつも通りである。結局両手とも水瀬が頭上で固定して、バタバタする足すら挟み込んで固定して、

水瀬が満足するころには山瀬は酸欠で目を潤ませながら息も絶え絶え、ちなみに結構怒っている。


「お腹すいた」
「ご飯のまえに水瀬は俺に謝ってー」
「今日はパンかな」
「おこめがいい」


……簡単に流されるのが山瀬である。

すぐご機嫌にご飯について胸をおどらす山瀬をみて、水瀬はぼんやり「犬みたいだ」と思う。
周りから言わせてみれば両方犬みたいである。



「んー!姉ちゃんの飯相変わらずうまいー!」
「山瀬、ほっぺに米がついてる」
「あーほんとだーほくろほくろー」
「うん、ほくろ」


黒子は白くないだろうなんてつっこみはさておき、2人の活動時間は昼間の2時からたったの2時間くらいだけ。あとは2人してスーピースーピー寝るのが日常だ。

米粒一つのこさずきれい2食べ終わった2人は指事通りにお皿をさげて、仲良くお茶をのんで、テレビをつけて、それをBGMにのんびりごろごろする。


「へー、この女優けっこんするんだー」
「…だれ?」
「相手?えっとね、一般人だってさー」
「ちがくてこの女だれ」
「水瀬こないだもこの人の名前きいてたよ」
「そうだっけ」


学力だが、白馬の王子様と讃えられる完璧ルックスを持つ水瀬より、湯たんぽなゆるゆるイケメンと称される山瀬の方が偏差値は高い。


山瀬は上の中で、水瀬は下の中といったところだろう。
ルックスからは想像出来ないギャップを知っているのはクラスメイトのみである。


水瀬は基本人の顔とか名前は覚えない。
クールビューティとかではなくふつうに馬鹿なので覚えられないのである。

そんなところがクールだと人気なのだが、そのことが「ルックスが全てだ」という現実をクラスメイトに突きつけている。



「ねえねえ、えっろーいキスしたい」
「めんどい」
「みーなーせぇ、」
「…はぁ」


しょうがないな、と山瀬の顎を持ち上げてべろを突っ込む水瀬。
山瀬は知っている。水瀬はめんどくさいと言っていながらベロベロとキスに熱が入ってくることを。

肺活量がない山瀬からしたら水瀬の粘着質で長いキスは苦しくてしょうがないのだが、なんだかぽかぽかする、らしい。


「ん、…ちゅっ、ふ、」
「はぁ、んむ、」
「んーーー、んはぁ、…ふへー、水瀬の顔めっちゃエロー」
「は、ぁ、山瀬、よだれきたない」
「んじゃなめんなよー」
「掃除掃除」

口端から溢れたよだれを水瀬がべろりとなめあげる。無表情な水瀬だが、付き合いの長い山瀬からしてみればその無表情がわりとリラックスしているということが分かるらしい。

そんな水瀬はきれいだなぁ、と栗色の髪に指を通した。


「あー、なんでだろー、むらむらするー」
「興奮してんの、山瀬」
「こーふん?してんのかもーひひひ」
「うわきも」
「だってきもちーじゃん」


まぁね、と水瀬は山瀬の首筋にかおを埋める。小さな痛みとちゅっという音で山瀬は、あーなんとかマークつけられてるー、とにやにやする。

でも首を舐められるとちょっと変な気分になる。出そうな声をなんでか抑えなきゃと思うのだ。


「……っぁ」

「…?やませ?」

「……ぅ、なに、」


背骨を指でこりこりとされたあたりで山瀬は自分の口を手の甲で抑えた。

くすぐったいとかじゃなくて、なんか変だ。
不思議そうに見上げる水瀬の目がなんだかいつもたってもいられないくらいえろく感じてもう片方の手を水瀬の目にかぶせた。


「…山瀬、ここちょっと硬い」


背骨をこりこりするのはやめず、水瀬の骨張った手が山瀬のそこをスウェットの上からやわやわと撫でた。
びくりと体を揺らした山瀬はよくわかんないが恥ずかしくてしょうがない!とぎゅっと目を閉じる。

そんな山瀬を不満に思い、水瀬はそこをゆったりと撫で続ける。

「っうぁ、」

「なんで?」

「ううーー!!!水瀬のばか!!!」



だめだ、なんだか恥ずかしい!!!

ばーん、と水瀬を突き飛ばして山瀬はダッシュで水瀬の部屋に飛び込んだ。
水瀬なんかきらいだうそだけど分かんないけど恥ずかしいからいやだすげーやだ!


リビングのソファに取り残された水瀬はちょっぴりショックを受けていた。
ばかって言われた上によくわかんないが突き飛ばされた。山瀬に全力で拒否されるのは初めてである。



しかしまぁアホの子とバカの子である。
2人揃ってちょっとだけもやもやしただけで、まぁいっかとそれぞれそのままスピスピと眠りにつく。


夜ごはんの時間になってごはんをたべる時にはふたりとも元通りになっていた。


今日もふたりはとってもバカである。







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