短編たち | ナノ




「お前らなにしてんのって聞いてんだけど」


なんで、という思いがぐるぐる頭を回る。
那月くんが来るんじゃないっけ

なんで響がここにいるの



「……関係ないだろ」

「ある」

安達の声にほとんどかぶせるように反論した響はゆっくりこちらに近づいてきた。


「お前が誰か知らねぇけど、
誰に許可得て時雨に触ろうとしてんの」



頭がガンガンする

なんで、意味がわからない

近づいてくる響がぶれてみえる


「いいところで残念だけど俺、いまから時雨に話あるんだわ」

「響、」

「なんだよ」


安達に失礼だ、と言おうとして口をつぐんだ。
なんでそんな、

なんでそんな顔するんだよ

そんな傷ついたみたいな顔、


「安達、」

「…なに?」

「俺今から響に説教しなきゃいけねーの。だからごめん」

「……分かった」


ごめん、と安達の唇が動いた。

それはキスしようとしたことのことを言ってるんだろう。ちいさく首を振って苦笑いをする。

だって安達は無理矢理しようなんて思ってなかったから。
嫌がった俺に気づいて、すぐ止めてくれたから。


「安達、ありがとうね」

「おー、無理はすんなよ」


振り返らずに手を振って教室を去っていった安達。ガラガラと音を立ててしまったドア。


「……お前、俺が好きなんじゃねぇの?」

「……それを響が言うの?」


さっきの安達と同じくらい近い距離に響の悲しそうな顔があった。


「すきだった、って言ったんだよ俺は。」

「そんなすぐ切り替えられるもんなの?」

「そうだね」

俺は淡白だから

小さくこぼした返事に響がバン、と机をたたいた。


「……じゃあこのストラップはなんで返して欲しいわけ?」

叩きつけられるように机に置かれたストラップ。それを目に入れてまた目が見開く。


「…それ、なんで、響が」


塗装の剥がれたそれは、俺がまた求めた思い出みたいなものだった。
震えた声に唇をかんだ。

なんでって、簡単だそんなの

那月くんが言ったんだ

でも、なんでそれを響に渡すのかがわからない。頭がぐるぐるする。

やっぱり意味がわからない



「お前はまだ、俺が好きなんじゃねぇの」


切なそうにゆれる響の目
なんでそんな目をされなきゃいけないのかわからない

さっき安達にされたのと同じように顎を掴まれた。


「好きじゃ、ない」

「時雨、」

「ちがう」

「しぐれ、」

「やめろっ」

どん、と近づいていた響を思いっきり押す。傾いた机からストラップがコツンと音を立てて落ちた。






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