短編たち | ナノ



side響





「これ知ってる?」


那月に差し出されたのは鍵。
しかし那月が指しているのも、俺が目を奪われたのもきっと同じだと思う。


「…これ」


「俺には何かわからないけど。
時雨くんがこれだけ返してほしいって」



那月の手の中にあるのは塗装の剥げたペンギン。見覚えのありすぎるそれは俺のものではない。

俺のは外に出すことなく、ずっと財布に入っているから。


時雨は、ほんとにずっと俺のことを
じわじわ伝わるあいつの思いにジクジクと胸が痛む。

ほんとに俺って最低だ。最低なのはわかってた。それでもいま、やっと自分がどれだけクズなのかわかる。

伏せた目を那月が覗き込む。
その目には涙が張っていて、


「ねぇ響、俺たち別れようよ」


その声は優しすぎるものだった。


「那月…」


「俺は、俺を見てない人と付き合えるくらい強くないもん。だから、

別れてください」




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