次郎部屋 | ナノ



どん、とぶつかった拍子にまたあの気持ち悪い匂いがふわりと漂った。


廊下の真ん中

ぶつかった相手はちほさんではない。
なぜならちほさんは俺の真横にいたはずで、たしかに正面からぶつかった人からその甘い香りがするのだから。


もしかして例の雛ちゃん…?

うわヘコみそう、またモヤモヤしそう


でも感じ悪いのはよくないから、まずはぶつかったことを謝って……
うつむかせていた顔をゆっくりあげる。

そして思いっきり目をまん丸くした。


「あ?桐生か、わりぃなぶつかって」

「え……佐賀?」

「呼び捨てはやめろよ、仮にも先生だぞ」

「え、え?」


いやでもたしかにあの時の甘い香りだ。


「うぇ、佐賀っちまだそのゲロ甘いコロンつけてんのぉ?」

「あ?ゲロ甘い?コットンキャンディだぞ?美味そうだろ」

「やめろって言ったじゃん〜、
だいたいこないだなんて巻き添えに俺にもふりかけるしさぁ」

「お前が臭いっていうから良さを教えてやろうと思ってな」

「ほんと最悪〜……ってあれ?次郎?
顔真っ赤だけどどうしたの?」


……死にたい


甘い香りから嫉妬していた人物が、まさかアラサーのおっさんホストだったなんて。


「……帰る」

「えっなになに!今度はなに!」

「香水かけられたならそう言えよ馬鹿!!」

「はぁ?……あ!あぁ!!そっか!!変な匂いって佐賀っちのせいだったのかぁ!」

「だから変ってなんだよ変って!」


死にたいし、埋まりたい。


fin