次郎部屋 | ナノ






昼下がりの生徒会室
またまたいつのまにか拉致されて、中庭で寝ていたはずの俺は生徒会室の仮眠室に押し込まれていた。

まぁいいかいつものことだし、と仮眠室にある冷蔵庫を開けると沢井先輩が置いておいてくれたアロエヨーグルトの山。

ほんとあのひと俺に甘いよね


「んー、おいひ」

プリン?というかプシュン、というかなんとも言えない食感に、爽やかなヨーグルトの味。たまらない美味しさだ。よく冷えてて喉越しすっきり。


寝起きの体にちょうどいいすっきり具合で、増えろビフィズス菌なんて思いながらせっせと口に運んでいた。



「おー、起きたのか」


そんな最中、だるそうに前髪をかき上げながら飛鳥先輩が仮眠室に入室。
溢れ出る色気は情事を思わせる。

まぁこの人の場合ヤって来ましたって言われても全然信じる程度に性生活乱れてるんだけどね。

というか実際髪濡れてるしヤって来たんじゃないの。流石すぎる。

ヤるなら仮眠室でやればいいのにね、俺なんて拉致しないでさ。


「セフレですか?」

「セックスフレンドでもねェな」


それはフレンドって程にも思ってないということなんだろうな、流石か。

ベッドに腰掛けてアロエヨーグルトを頬張る俺の横に座った飛鳥先輩の髪は、やっぱりジャンプーの匂いがしてすこし湿っていた。

そのまんまだと風邪ひきそうだけど、飛鳥先輩なら風邪菌すら逃げそう。

手にしていたミネラルウォーターをごくごくと飲む姿は様になってるけど濡れ髪でペションとしていてなんかかわいい。


「いいなー」

「あ?何が」

「何って、俺たぶん男抱けないんでここではセックス出来ないんですよね」

「ブッッ」


うわ汚い
そう思う間もなく、飛鳥先輩がぐるんとすごい勢いでこっちを向く。

「おま、何言ってんだ急に!」

「だからセックスできな「言うな!」…はーい」


どうやら飛鳥先輩は俺がセックスのセも言わないような純情チェリーボーイだと思ってたらしい。

いやいや、俺にめちゃ彼女がいること知ってるんじゃなかったっけ?

「…じゃあお前今どうやって発散してんの?」

「一人でスるのもありますけど、定期的に海外飛んでヤり溜めしてますね」

「その見た目で!?」

「??はい」


嘘だろ、と天を仰ぎ始めた。
よくわからないけど大分ショックを受けているらしい。


「…お前初等部からここじゃねェの?」

「初等部からここにいるからってホモになるわけじゃないでしょう?」

そもそも童貞捨てたのは中三で、海外行ってからだし。
信じられない、というように目を瞠った飛鳥先輩はそのままゴロンとベッドに仰向けに倒れた。


「先輩、そのまま寝転がるとベッドが湿っちゃうんですけど」

「いつか乾くだろ」

「そろそろ寝たいんです」

「また寝んのか」

呆れたような声
この人に出会ってから俺、呆れたような声しか聞いてない気がする。

仕事はまだ一回しかやってないのによくまぁ俺に構ってくれるよね。優しい人だ。

でも性生活乱れすぎだよ。
そんなにヤりまくってて体調とか大丈夫なのかな。

俺もそのまま横に寝転がり、そっと遠慮がちに手を先輩の髪の毛に伸ばした。

「…なんだ」

「いや、風邪ひきますよ。まだ濡れてます。」

そういえばすこし目をみはったあと、おかしそうに笑った。

「俺の心配してんのか?」

「??そりゃあ心配してますけど」

「ふ、なんだそれ」

なんだそれって、なんだそれ。
おもしろいって褒めてる?いやそうでもないな、褒めてないでしょ。

ちょっと怪訝そうな顔をしたのが伝わったらしい。さらに面白そうに笑った飛鳥先輩はごろんと転がって俺に体重をかけてきた。

思わぬスキンシップにびくりと体が跳ねる。

だってだって、寝てる時に運ばれてるから普段どう触れてるのかわからないし、

だってだって、
だってだって、

高鳴る心臓に脳が言い訳をはじめる。


「もっと撫でてろ」

「へっ?」

「頭。お前の手は心地いいなァ次郎」


聞いたこともない甘い声にさらに心臓がうるさくなる。うるさい!うるさい!

でも飛鳥先輩の声がエロいのもいけないんだとおもう。
言われるままにおそるおそる撫で続けると飛鳥先輩は綺麗な顔でニヤリと笑んだ。

そして三日月を描いた目が、少しずつトロンとする。あ、寝ちゃうのかな。
なら俺も寝ていいのかな。


いつのまにか俺の腰に先輩の手が回っていて、どんどん引き寄せられていた。

不思議と嫌な感覚はなくて、むしろ


(心地いい)


先輩の目が完全に閉じて、形のいい唇から安らかな寝息が吐き出される頃には俺も眠くて

ちょっとだけ、ちょっとだけ

と図々しく先輩のシャツをぎゅっと握った。

人とこんな近い距離で寝るのは久しぶりで、香った柔軟剤が先輩らしくなくて、

ひどく心地よかった。