次郎部屋 | ナノ




「なんか最後なのにね」

「あぁ、次郎いなかったね」


残念な顔をするのは俺だけじゃない。所詮猫は懐かないからしょうがないのだ。


卒業式を終え、あとは各自帰路に着くだけ。たくさんの生徒が涙を流して別れを告げてくれた。


それでも俺が見送って欲しいのはただひとり。そのひとりはいないけれど。


「飛鳥様、お車が参りました」

「あぁ、今行く」


連れのものにそう言われ頷くが、動きたくないなんて思ってしまう。


なぁ次郎、最後なのに少し冷たすぎやしないか。


「飛鳥様?」


「あぁ今行く。」


三年間すごしたこの場所。次郎と過ごしたのは半年と少し程度。

でもそれがどんなにおおきなものなのか、自分でもわかってなかったみたいだな。



自嘲気味に笑いをこぼしてもういちど校舎を振り返った。

あの場所で何回も次郎をひろって、あの場所でいろんな次郎の表情をみて、

あの場所で。


「……次郎」


会いたい。最後にお前に触れたい。


なぁ、次郎。





「飛鳥、せん、ぱいっ、」


そのとき、ここに響くはずもない声音が響く。
勢いよくそちらを向けば息を切らした黒髪がへたりこむように肩で息をしていた。


「間に合ったー……一日間違えてたんですよ、良かった

絶対卒業式には来ようっておも……っ」


引き寄せた。

触れたかった猫っ毛の柔らかい黒髪のと、小さい頭と、細っこい体を。

そしてその整った、嫌に発色のいい唇に食らいつく。


「っ、んぅ、…」


薄く開いていた唇から自分の舌を突っ込み、本能のままに咥内を
食べ尽くす勢いで。


「っ、ふぁ、待っ、あす…っ」


待てるわけない。

もう散々待っただろ?


「っ、はぁ、はぁ、」

「は、ぁ。次郎……」


キスが終えた後も思いっきり抱きしめた。細い体は一度戸惑うように硬くなり、またいつものようにぐでんと全体重をかける。

猫だって懐くんだといいたげに見えたから重症かもしれない