次郎部屋 | ナノ





side神田飛鳥



「…すか、飛鳥、聞いてる?」

「ん、あぁ、光か。なんだ」


ぼんやりしていた俺を突く光はいいとして。またぼんやりしてみる。目の前のうどんを見ながら。


「ったくもう。また次郎のこと?どうでもいいけど大学部に誘拐してこないでよ」


「それいい案だなァ」


会いたきゃ連れて来ればいいのか。卒業とともに会う機会がぐっと減った一人の愛しい後輩。


よく寝て、食べるのも忘れるくらい寝て、時々真面目。

あの猫っ毛に触れたい。思いっきりかきまわして嫌がって諦めたように笑う姿とか、寝ぼけてくふくふと笑う姿とか。


「あー、会いてぇな」

「そんなのみんな同じ。特に七緒なんて一度言いはじめるとうるさいんだから。」



猫みたいに気まぐれなくせに、なんだかんだ俺を甘やかすその後輩はうぜぇことに支持率が高い。

しかもむだに濃いキャラに支持されている。

目の前でおなじくうどんをすする男とか。

それはまぁあいつの優しさゆえか。思い出すのは卒業の日のことだ。


桜散る季節、代表で卒業生の言葉を読む俺。しんとしたホール。

そこに黒髪のその後輩は現れなかった。たしかその時はどこだったか。


『次は中国にでも行こうと思って』


気まぐれに、猫のようにふらふらとしたあいつのことだからそんな気はしていたけれど。