次郎部屋 | ナノ





その日は風紀の仕事が終わった日でとても疲れていた。

こめかみをマッサージしながらさっさと部屋帰って寝てやろうと、下をみずにすたすた歩いていたのがよくなかったらしい。


「ぎゃ、っ」

「うわ、」


気づかずに柔らかいものにつまづいて、その場に倒れ気がついたら目の前に芝生の緑が広がっていた。

ぎゃ、という蛙の鳴き声みたいな悲鳴に、どうやら僕は人を踏んでしまったらしいとやけに冷静な思考回路。


もういちどいう、その日は疲れていた。すこぶる機嫌が悪かった。

自由奔放でそのくせ冷静沈着なクソ委員長のせいで、すこぶる機嫌が悪かったのだ。


「……こんなところで、こんな時間に何やってるの?君」


自分の下敷きになって呻く生徒。

こいつのせいで睡眠時間が少し減った。しかもどう見てもサボりだ。

中庭のこんなど真ん中でこんな時間に横になっているなんてありえない。


「いった……いやむり、苦し…っ降りてくださ……」


苦しそうな呻き声と批判の声。

さらにイラついた俺は横向きになって咳き込むその生徒の髪を掴み、自分の方に向けた。


「……へぇ」


これはまた。随分綺麗な子。


「いま君のせいで転んじゃったんだ、俺」

「いっ、髪いたい…っ」

「ねぇ、謝ってよ」


痛みに歪むその綺麗な顔に魅せられて、口を耳に寄せ囁く。


「ひ…ごめんな、さい」


怯えた顔もわりと好みで、ゆっくり髪の毛を離した。


安堵したように息を吐いたその子はこっちをみて不満げな顔をした。


(あ、この子泣かせたい)


次郎の第一印象だった。