次郎部屋 | ナノ
いつかばれて、お前が俺に対する信頼をすべて消したら。
そう思うと怖くて、こんなことは初めてで戸惑う。
「第一印象とちがうよね」
そう言われたときは焦りを隠せなかった。そりゃそうだ。演技と本音。
違うに決まってる。
焦っているうちにさらに焦る出来事が起こって。
おれの正体はとても簡単にばれてしまったのだ。
不安げに揺れる目が説明を求めていて、気付かないうちに涙がこぼれたらしい。
「軽蔑しただろ、」
こんなことになるなら。
こんな人ターゲットにしなきゃよかった。
止まらない涙がそっと拭われた。
「俺は楽しかったからいいよ、巴」
力ない笑顔が、しょうがないなぁとでも言いたげに俺の頭を撫でた。
「巴は楽しくなかったかもだけど、俺は巴といてたのしかったから」
楽しくないわけないじゃないか。
こんなの初めてなんだ。
小さい頃に親から大した愛情ももらえず、なにに依存することなく生きてきた俺の初めての宝物なんだから。
なんでお前が泣くんだよ。
なんで笑ってんの。
なんで楽しかったとか言えんの。
ただ目の前のほそくてしろくて、やたら綺麗なひとを抱きしめたらぎゅうと抱き返された。
相変わらず変わらない信頼の重みにさらに涙が出て、
「ありがと」
ありがとう、次郎。
俺を受け入れてくれて。
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