なのに。いつの間にほだされたのか。
「巴だーおはよ」
すれ違うたびに無気力そうな顔をぱぁ、と明るくするこいつ。
「おはよ次郎」
なんかあほらしい。
こんなやつに演技で近寄るなんてなんてあほらしいんだろう。
なんも考えてなさそうな、甘ちゃんだろうに。時折見せる表情の陰る瞬間に死ぬほど好奇心を抱いた。
好奇心だけだったのかいつまにか母性になって、
安心しきって信頼しきってへにゃへにゃ笑うこの瞬間を守らなくてはと思ってしまった。
思ったよりうれしかったんだ。
信頼されているのが。
頬をなでればすり寄ってするし、興味本位に抱きつけば背中をぽんぽんと叩かれる。
甘やかして、甘やかすような、そんな妙な関係は中毒性がたかかった。
信頼なんてされたことはない。
情報に対する信頼ならあつかったが、人としての信頼をおかれたことはなかった。
非道冷徹と囁かれる現実を、こいつは知らないで。
「ん、くすぐったい」
髪をもしゃもしゃすれば笑いながら身をよじる。懐いたように俺の名前を呼ぶ。
どうしようもなく大切だなんて、そんな思いを持った時には怖くなっていた。
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