次郎部屋 | ナノ





「善ちゃん、今日何の日か知ってるー?」


目の前でエビフライを頬張って幸せそうに頬をゆるめる善ちゃんにそう問えば、訝しげな目を向けられた。

なんとなくの世間話のつもりで口にする。


11/11、ポッキーの日だ。


もちろんそんな文化を知っていたわけではない、

朝イチに和くんが教えてくれたのだ。

習慣とやらのポッキーゲームとともに。


「なにかあるの?」


我関せず、とまたエビフライをもぐもぐし始めた善ちゃん。


どうでもいい、という雰囲気を醸し出している。


「ポッキーの日だよ、平たく言うとスリル満点のキスゲームをする日」


そう言ってうどんをすすれば善ちゃんがエビフライを噴いた。


「は?何言ってるの?」


「え?だからスリル満点のキスゲー…」


「黙って」


聞き返しておいてそれはどうなんだろう。


まぁいい。


男子校には関係のない話だ。

あ〜女の子としたい。

善ちゃんはなにかを考え込む、みたいな顔をしてもくもくとご飯をたべていた


雑に、しかし綺麗にまとめられた銀色がゆらりとゆれるのをぼんやりみていた。


食堂から教室に戻る途中、


相変わらずなにかを考え込むみたいな顔をしている善ちゃんが立ち止まった。



親衛隊対策に人通りのない廊下、

ぴたりと立ち止まる善ちゃんを訝しげにみるのは俺だけだった。



「?善ちゃん?」


そばにより、顔をのぞきこむとそっと肩を掴まれ、トン、と優しい力で壁に押し付けられた。


じろう、と音を発さずに、でもはっきりと動いた口元。


さら、ときらきらしている銀色が俺の肩にかかり、


「え、善ちゃん、なにし…っ、」


喋りかけた俺を遮ったのはすこししっとりしたあたたかい感触。


唇のほんのすこし横に触れたその感触にびっくりして固まる。


触れるだけの長い時間がたち、ゆっくり離れていく。



「…スリル満点、ってところがよくわからなかったんだけど、

こういうこと?」

それは、唇に触れるか触れないかのスリルってことだろうか。

というか、え?

ぺろ、と自分の唇を舐めた善ちゃんに顔が熱くなった。

「で、これがなんでポッキーと関係するの?」

「そーじゃ、なくて」


顔を覆ってわぁわぁいう俺を善ちゃんが訝しげにみていた。


無知ってこわい。