次郎部屋 | ナノ


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「……げ、なにこの着信」

気持ち悪い

と正直につぶやく。
飛鳥先輩からはライン
七緒先輩は着信
光先輩はメール
沢井先輩もメール
それで太郎、太郎、太郎、太郎


ほとんどの着信は太郎からで、あれ同輩から来てないなと思いきやそういや俺、今日が何の日か言ってないなとぼんやり思った。


俺はわりと記念日とかはどうでもいいタイプだ。

それがたとえ自分の誕生日でも。

うちにくいスマホを操作するのはめんどくさいし、メールに返信するのもめんどくさい。

だから祝ってくれるひとが勝手に乗り込んでくるっていう出来事はわりと嬉しかった。


それを考えると自然に手が耳に移動する。
間違えてなければ今も耳についているのは真っ赤な石なはずだ。

痛いのは嫌いだ、と言ってるのに舌舐めずりしながらピアッサーを向けてきたひとたち。

いや、光先輩と沢井先輩は止めてくれたっけ。

『俺の買ってきたプレゼントがつかえねぇっていってんのかなぁ』

なんて飲み会の泥酔した上司みたいなクソな事を言ってた七緒先輩は今考えてみてもほんとにクソすぎると思う。

飛鳥先輩はニヤニヤしながら賛同してたわりに慎重に冷やして、消毒してペンで場所確認してっていう世話焼き具合で面白かったなぁ。

ピアッサーのバチンって音にびっくりして固まってる俺を沢井先輩があやすようになだめて、

大爆笑してる七緒先輩と飛鳥先輩を光先輩が怒って、


「今年はさみしい」


みんなに言わなかった自分が悪いんだけどね。去年はさんざん甘やかされて、言わなくても勝手に調べられて、勝手に祝われて

めんどくさいな、なんて思ってたくせにすごい嬉しかったんだと今更ありがたみが増してきた。

日付が変わって15分
ようやく太郎からの着信がやんでスマホが静かになる。

その静けさに耐えられなくて体育座りに顔をうずめた。

さみしいなら和くんを起こせばいいし、祝ってほしいなら言えばいい

わかってるのにそんな事を言う自分は面倒くさくないのだろうかって結局悩んでなにもできない。


「あー、俺ほんとめんどくさい」

まるで女みたいだ。

なんでそもそも起きてるんだろう、さっさと寝ちゃえばいいんだ。

よし、寝よう忘れよう

もう一度耳についた石に触れ、コロンとベッドに転がった。