alone | ナノ



触れた手は冷たく、交わす言葉はどこか虚しかった。
伝えた想いの代償として手に入れたのは、空っぽの関係。
何がいけなかったのか。
気持ちを伝えたこと、それとも好きになったこと自体が間違いだったのだろうか。

恋をした。ただそれだけだった。
たったそれだけのことが、辛くて切なくて愛しくて、叶わないと知っていても焦がれる想いは消えなかった。
そうして今、傍にいるのは望んだ彼女。


「なまえ」

「あ、孝介」


あれから、彼女に行かないでと告げられてから3日。
そこには愛こそなかったけれど、お互いにそれを承知の上で幼馴染みという距離を縮めた。


一般的にこの状態を、彼氏彼女という。自分も彼女も、それを理解している。
確かに自分達はそういう関係になった。けれど相思相愛か、と言えばそういうわけでもない。
その証拠に、なまえは泉と目が合う度にぎこちない笑みを浮かべるのだ。寂しそうに、けれどそれがバレないようにと隠している。
わかっている。こんなの自分の我が儘だ。
好きと言ったのも彼女を避けたのも、そんなのは全部ただの束縛。
けれどそんなことは言えない。たとえ気持ちがなくても、ずっと欲しかったものを簡単に手放すなんてできなかった。


「購買行こーぜ」

「、うん」


す、と手を差し出せば、一瞬戸惑うもののまた笑みをつくってそれを取る。
苦しそうな、なまえのこの表情を見る度に胸の辺りがきゅっと締め付けられて、それを誤魔化すように彼女の手を握ってゆっくりと引いた。

本当は、本当なら。
なまえには笑っていてほしいのに、辛そうな表情なんてしてほしくないのに。
自分の感情がそれを邪魔する。
一番大切にしたかったのに。
彼女が幸せであってくれるならそれだけでいい、なんて。
そんなこと言えない。
結局はこんなにも子供なんだ。
自分が幸せでありたい、傍にあるものを手放したくない。


「孝介・・・?」


控え目に呼ばれてはっと我に返る。
横を向けば隣にいるなまえは不思議そうにこちらを見上げていた。
しばらく目が合った後、視線を落とせば視界に入るのは繋がれた手。
何を思ったのか、泉はするりと手を離し、すぐにまた触れた。
それは先程とは違って、互いの指を絡ませる繋ぎ方。
ぎゅっとしっかり握って、困惑するなまえにできるだけの笑顔を向ける。
そうすれば彼女も笑い返してくれるのだ。
けれどそれはやはり、どこか悲しそうであった。

しっかりと握った手のひらから伝わるのは、暖かさと感触と、感情。
彼女をこんな風にしているのは間違いなく自分なのに、考えたくなくて気付かないふりをする。
どこまで卑怯な人間なんだ。
一体どれだけ最低な人間になっていくんだ。
どんなに形を造り上げても、所詮は偽りでしかないのに。

いつか壊れる日が来るのだろうか。
こんな形だけの関係なんて、いつでも打ち崩せるのだ。
きっとその内、なまえは泉がいなくても平気になってしまう。
けれど泉は知っている。彼女が自分なしで大丈夫でも、自分はそうではないことを。

ならばその日までは。いつか来るであろう分かれ道に立つ時までは。
例えば、彼女に好きな相手ができる時まで。
傍にいることを赦してほしい。
繋いだ手を離さないでほしい。

たとえ彼女に嫌われることになったとしても。
彼女が隣にいないことが何よりも苦しいのだ。
すべてはそう、彼女に抱いてしまった感情のために。
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