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苛々、苛々。
昼休みからずっと、泉の機嫌が悪い。
最も、表に出さないためすぐにわかる人物も、その理由を知っている人物も一人だけ。
放課後、ミーティングが終わり、結花を待って泉は教室で机に頬杖をついてぼうっとしていた。
しばらくして、委員会の終わったなまえが教室のドアを開け、まっすぐ泉の机に向かう。


「お疲れ様ー」

「んー」

「ご機嫌ななめじゃん。そんなしつこかった?」


彼女が言っているのは、昼休みに泉を呼び出した7組の女子のことだろう。
弁当を食べてすぐ、話があるから屋上に来て、なんて言われれば用事が何かくらい容易に想像できた。
めんどくさい、と眉を潜めた泉の様子にも気付かず、名前も知らない女子は泉の残りの昼休みを奪ったのだ。
実を言うとこれが初めてではない。
今までも何度かあって、もちろん全て断っているのだが、時々やたらしつこいのがいてそんな日はその後ずっと苛々して仕方がない。


「・・・彼女いないなら付き合って、ってさ」

「そんで、どしたの?」

「断ったっつの」


うわヒドー、なんて言われても、好きでない人間とどう付き合えというのだ。
泉に想い人がいなくて彼女願望が存在していたら有り得たかもしれないが、生憎と泉にはしっかり好きだと自覚している相手がいるのだ。

こうして話している間も、その女の諦めの悪さを思い出して気分は沈む一方。
それになまえが拍車をかけることなど、本人達は気付きもしなかった。


「ていうか、彼女つくっちゃえばいいのに・・・」


上から振り掛かってきた言葉に、バッと頭を上げた。
するとなまえ自身も驚いたようにぽかんとしていて、どうやら無意識で言ったようだった。
それはつまり、本心から出た言葉ということ。
考えてみればそうだ。泉に彼女ができれば、こんな告白される度に苛つくこともなくなって、なまえも泉のことで悩まなくて済むのだから。
それがなまえの本心。
けれど、わかっていても、それは泉の怒りを煽るだけだった。


「なに、お前はオレに彼女つくってほしいわけ?」

「、こー・・・すけ・・・?」


ガタリ、イスから立ち上がれば自然と目線はなまえより上になる。
そのまま、彼女に詰め寄るように近付くと不安そうに見上げてくる表情さえ、今は腹立たしい。


「そりゃそーだよな。オレに彼女できたら、お前は悩むことなくなるんだし」

「・・・・・・!」


至近距離にある瞳が大きく見開かれる。
どうしてわかるの、と言いたげな表情。
お前わかりやすすぎんだよ、と言えばなまえは困ったように俯く。
逃げ腰だった結花の腕を掴んで半ば無理矢理に目を合わせれば、戸惑ったような表情と視線が絡まる。


「もう気付いてンだろ」

「こ、」

「オレの好きなやつ」


喋ろうとする言葉を遮って続ければ、とうとう逃げ道がなくなった状況になまえは表情を歪めた。
ギュッと彼女の手がスカートの裾を握るのが見えた。

卑怯なのかもしれない。
なまえが逃げられないと知っていて、わざと追い詰めている。
掴んだ腕が小刻みに震えているのがわかっているのに、それを離す気にはなれなかった。

もう限界なんだ。
気持ちを隠して、彼女が気付いているのに知らないふりをして。
嘘をついて、つかれて、それの繰り返しばかり。


「・・・なまえ、」


ビクリと小さな身体が震える。
この後にくる言葉を恐れていることくらい、簡単にわかる。
これ以上進めば壊れてしまう。けれど、今まで通りにするなんてもうできない。


「好きだ」


戻れない、もう。
幼い頃の、ふたりには。
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