alone | ナノ



ずっとずっと一緒にいて。
きっとこれからもそうなんだって思っていて。
だけど時が過ぎる度に、少しずつ大人に変わっていく度に、当たり前が当たり前じゃなくなっていく。
オレはどんどん背が伸びて。お前はどんどん女になっていって。
変わらないのは、この関係だけ。
嫉妬も不満も、全部ただの我が儘に過ぎないのだ。


「こーすけー」

「なんだよ」

「お弁当にニンジン入ってたぁー」

「だから?」


隣に座るなまえは、自分の弁当箱からニンジンを摘んで、じっと泉を見ている。
もちろん、なまえがニンジンが大嫌いだってことくらい知っている。
その目が何を訴えて、何を求めているのかもわかる。
なまえはしばらく泉を見つめ、へらりと緩く笑う。


「孝介食べて?」

「・・・ったく、仕方ねーな」

「ありがとーん!」


いつも通り、いつも通りなのだけれど。
いい加減、なまえには好き嫌いを治してもらいたいものだ。
ニンジン、練りもの、豆類、苦いもの。
子供じゃあるまいし、嫌いなものを食べないなんて恥ずかしいとは思わないのか。
とは言ったものの、結局いつも甘やかしてその『嫌いなもの群』を代わりに食べる自分に原因があるのだが。
なまえは予想通りの答えににこりと笑って、箸で摘んだニンジンをこちらに向ける。
それに顔を近付けて、ニンジンをぱくりと口に入れた。
何とも微妙な甘さのそれ。結花が言うには、この甘いのがどうにも駄目らしい。
子供の時から繰り返されてきた行為のため、今さら間接キスがどうこうなんて思わないし、正直気にしていたらキリがない。


「なーなー。泉とみょうじってデキてんの?」


真っ正面で紙パックのストローをくわえながら、田島が泉達を凝視していた。
傍で三橋も二人を見つめているけれど、そこまで興味はなさそうだ。浜田に至っては、二人の関係を知っているため苦笑を漏らすだけ。


「ちげーよ。ただの幼馴染み」

「え、マジ?」

「おう。つか、知らなかったか?」

「全然!なんだよつまんねーの!」


田島はそう言いながらも、笑いながら手元のジュースを吸い上げる。
「すっげー仲良いから付き合ってると思った!」なんて。
こっちだって、もしここで「そうだよ」と返せたらどんなに良いか。

田島と三橋はまた手元のもの片っ端から口に放って、泉の気持ちを知る浜田は静かに労るような視線を送る。
不意に隣を見れば、なまえは戸惑ったように視線を自分の弁当箱に向けていた。
俯き気味な表情に影が落ちる。
思い出しては悩み、答えを見つけられずうなだれる。
一人で頭を抱える、そんななまえをもう何回見ただろうか。

そんな顔をさせたいわけじゃない。
自分のことで悩ませたくない。
だけどそこに捨て切れない想いがある。

けじめなんて付けられるほど大人じゃなくて、どうしようもない意気地無しで。
知らないふりをしているなまえを利用して、未だこの距離を保とうとしている。
これが一番自然な形で、いつの間にかこれが泉となまえの当たり前の距離になっていた。
いつか崩れるかもしれない。もう戻れないかもしれない。
それでも、叶わない想いを伝える勇気も、諦めて彼女を忘れる強さも、泉は持っていなかった。
だから、今はまだこのままで。当たり前を造ってしまおう。

くしゃりと隣の髪を撫でて、驚いて声を上げたなまえににかりと笑顔を向ける。


「何暗くなってんだよ」

「く、暗くなんてないよ!」

「嘘つけー」

「むー・・・孝介のあほー!」


やっぱり、この状態が一番楽しい。
一緒に笑って、話して。オレがいて、なまえがいて。
ずっと続くだなんて思っていない。いつかは、この想いが終わる日が来る。
だけど、できることならなるだけ遠くに。
だから今は、ふたりで笑っていさせて。
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テーマ「人外ファンタジー」
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