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今までずっと一緒だった彼の異変に気付いたのは、いつだったろうか。
ふと振り返れば必ずと言っていいほど泉と目が合う。
そしてすぐに逸らされて、始めはどうしたのだろうと疑問に思いながらもすぐに忘れてしまった。
けれどそれが一週間、一ヵ月と続けば不審に思っても仕方がない。
態度には出さないけれど、何となくな答えにたどり着くまで、そう時間はかからなかった。


「孝介!今日ミーティングだけでしょ?一緒に帰ろ!」


以前と変わらない会話、以前と変わらない彼。
以前と変わらないふりをしている、私。
孝介のこと好きだけど、大切だけど。
違う、そうじゃなくて、だって私は。


「オレは子守係じゃねーぞ」

「いいじゃん!週一でしか一緒に帰れないんだから!」

「はぁ・・・仕方ねーな。迎えにくっから教室いろよ」

「やたっ!」


ほら、こうしていれば何もおかしなところなんてない。
いつも通り、『幼馴染み』の私達。
逃げてるということくらい知っている。それでも認めるには大きすぎて、それは今まで積み上げてきたものを崩すという意味だから。

彼の視線に気付かないふりをする。
遠ざかることなんてできない。一緒にいるのが当たり前になった私達には。
孝介がいて、私がいて。それが二人の日常だった。
だからこのまま、今こうして笑い合える幼馴染みという関係を保って。
そうしていつか、孝介が誰か別の子に恋してくれることを心の片隅で願っている。
私は彼の気持ちに応えられなくて、だけど離れてしまうなんてとてもできなくて。
今日も私は嘘をついて、一番信頼している大切な人を騙す。


「なまえ、」


時々、彼は私をこんな風に呼ぶ。
いつもの優しい声に、憂いを帯びたような切なさ。それを聞く度に胸がきゅっと締め付けられる。
その後に何を言われるのかと、自然に身体が強張ってしまう。


「なに?」


一体いつから、彼の言葉に怯えるようになったのだろう。
彼の気持ちに気付いた時から?初めてその声を向けられた時から?
そもそも、彼の視線に気付いたのはいつだったろうか。
一ヵ月前だったか、それとも高校に入った頃か。もしかしたら自分で意識しなかっただけで、もっとずっと前だったのかもしれない。
だけどただ一つわかること、


「・・・なんでもねぇ」


私は、孝介に応えることができない。
きっとそれだけが、今の私にわかる現状で。同時に、一番苦しい現実でもあった。

いっそのこと、幼馴染みなんて関係じゃなければ。
彼を違う目で見れたのかもしれない。
二人を繋ぐ、重苦しい『幼馴染み』という名の鎖。
その鎖がなければ出会わなかったかもしれない。だけどこんな風に彼から逃げることもなかったかもしれない。
酷く残酷で暖かい、絆。
断ち切ることなんてできない、孝介から離れたくない。
どんなに酷いことだとわかっていても、家族のように共に育ってきた彼と離れることなんて、考えたくもない。


「なまえ」

「うぇ?」

「ンだよ、そのマヌケな声」

「や、何でもない!考え事」

「ふーん。なあ、お前さ、」

「なに・・・?」

「好きなヤツとかいる?」

「・・・・・・!」


何を言うんだ、と口から出そうになる言葉を飲み込む。
なんの前触れもなく、いきなり尋ねられなまえは動揺する。
答える言葉が見付からずきょろきょろと辺りを見回すけれど、運が悪いのか泉が仕組んだのか、クラスメート達に二人の会話を聞いていた者はいない。
当の泉はというと、真っ正面の机に頬杖をついて、じっとこちらを見ている。
その視線にうっと唸るものの、黙り込んでいては何の解決にもならない。


「い、ない・・・よ」

「そ」


ただ聞いただけ、と言うように泉はたった一言で返してきた。
それ以上何も言えず、なまえは黙り込む。
きっと、他の友達だったら「そっちは?」と尋ねることもできただろうに。
叶わない、それが泉だから。

長く一緒に居過ぎて、相手が何を考えているか知らず知らずの内に気付いてしまう。
家族みたいに育ってきたがために、それ以外の目で見れない。
大切だけど、恋とは明らかに違う。
結花にとって泉は親友で、一番頼れる相手。だけど、それだけだった。
こんなに悩んでいるのに、こんなに苦しめているのに。
踏み出せない。この状態から抜け出すのが怖い。

幼馴染みなんて、嫌なことばかりだ。
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