愛情と友情の違い。もしかしたら、かなり近いものなのかもしれない。
近くに居たい。特別でありたい。そう願うのは当たり前なのに、叶えるのは難しい。
間違えばかりが積み重なって、何が本当なのかもわからない。
笑うのは苦しいのに、なくのはもっと辛い。
好き。ただ一言が、重い。
「え、あいつ、来てないの」
「おー・・・昨日のせいかな」
ぽりぽりと頬を掻く浜田に、昨日のような怒りはなかった。不思議と気まずくなることもなく、いつも通りに話せることに安心した。いつも突っかかってくる浜田と距離を置くと、一日がやりにくくて仕方ない。
普通ならよほどのことがない限り休むようなことをしない結花が、今日はいない。ただの風邪とも思えるけれど、あまりにもタイミングがよすぎる。確証はないけれど、おそらくは仮病だろう。
はあ、とあからさまなため息が零れる。ちらりと目を向けた彼女の机は、ぽっかりと寂しい空間を作っていた。
パカッとケータイを開き、アドレス帳から彼女の電話番号を立ち上げる。いつもこの操作だけは早い。
なまえの番号に発信してケータイを耳に当てる。発信音の代わりに流れる待ちうた。もーちょーいい曲だから!と笑ったいつかの顔が浮かぶ。
しばらくその曲が流れ続けて、3回目のリピートの途中で電源ボタンを押した。
「無理、出ない」
「そっかー・・・」
ため息が喉から重く垂れる。休みなら必ずこちらに連絡が入るはずだし、喧嘩していても同じだということは経験上わかっていた。
今まで彼女が意味もなく電話に出なかったことなんてなかっただけあって、ズシリと胸につっかえるものがある。
意味もなくケータイを見つめるけれど、授業が始まるまでにそのサブ画面が点滅することはなかった。
当然、と言ったらおかしいかもしれないけれど、どうしても授業に集中することができなかった。いつもならこんな日は諦めて居眠りするのに、そんな気分にならない。頭の片隅には必ずなまえがいて、馬鹿らしいくらいに気にしている自分を笑いたくなる。
「・・・あー、駄目だ」
昼休み。食べる量はいつも通りなのに、何故か食べている気がしない。味もあるし満腹感もある。
ただ気分が乗らないのだ。あのうるさい声がしないだけで。
バカッ、折れるんじゃないかってくらいの勢いでケータイを開く。結花のアドレスから新規メールを立ち上げて、件名も添付も無視して本文に一言。
『今日そっち行くから』愛想の欠片のないメールをそのまま送信した。いつもケータイをいじっている結花のことだ、今朝の電話にも気付いていないはずがないのだ。
ケータイを閉じて目線を上げると、おにぎりを持ったままの田島がじっとこちらを見ていた。
「みょうじ?」
「おー」
「やっぱな!」
何がやっぱ?と聞けば田島はおにぎりを頬張ったままの口でにししっと笑った。
だって元気そーになったから!当たり前のように言い放つ田島に少しびっくり。
・・・あ、そ。曖昧な返事でも田島はいいらしい。変な確信を持っているこいつにはどんな返答をしたって反応は同じだろう。
事実、田島の言うことは間違ってはいなかったのだから。
未だ電話もメールも来ないケータイ。無意識にそれを握っていた自分が妙におかしかった。
「・・・」
苦しいけれど。わからないことばかりだけれど。
何も知らないで、知らないふりをしながらそばにいることは、もうできない。
嘘は懲り懲りだ。強さなんてオレにはないけれど、それでも向き合う努力はしたいのだ。
まだ、聞いていないことがある。伝えきれていない言葉がある。