alone | ナノ



「それで、おまえはどうしたいの?」
「・・・・・・」
「喧嘩して、仲直りして、今までみたいにできんの?」
「・・・・・・」
「それともまたあいつから逃げる?」
「・・・・・・」
「おまえが一番したいことって何?」
「・・・・・・」
「怖いんだろ、当たり前にあいつと話したり遊んだりできなくなるかもしれないのが」
「・・・・・・」
「けどさ、今逃げて、あいつに助けてもらおうとしたって無理だぜ」
「・・・・・・」
「それでおまえは後悔しないわけ?」
「・・・・・・」
「今もう辛いのに、このままだったらもっと苦しくなるんじゃねーの」
「・・・・・・」
「・・・なあ、オレだけ話したってわかんねーだろ」


結花の前に座る浜田は普段からは考えられないくらいに真剣な表情をしている。そんな彼に動揺しているのかは自分でもわからないけれど、何か話さなければいけないというのは自覚しているのにどうしても口が開けない。
いつも優しくて面倒見の良い彼だから、怒った時は本当に怖い。
委員会が終わってカバンを取りに来た時、彼はもう既になまえの机の前にスタンバイしていた。雰囲気で、いい話ではないのだとは察していた。
彼の言うことにどう返せばいいのかわからない。いくつも言葉は浮かんでくるけれど、全部ぐちゃぐちゃになって気持ち悪く頭の片隅に膿を残す。
浜田の言う『あいつ』とは、きっと最近悩んでいる彼のことなのだろうけれど。
ならどうすればいいのだ。わけのわからない感情にがんじがらめにされて、辛くて泣きたくて仕方ない。怖いくらいに的を射ている浜田の言葉が重い鎖のように心臓を締め付ける。苦しい。


「みょうじは、これからどうすんの」
「わ、かんない」
「わかんなくねーでしょ。自分の気持ち、知ってんだろ」


ぐっ、と言葉に詰まる。やっと絞り出した声さえ、こんなにあっさり切り捨てられてしまう。
わからない、わからないよ。ただ痛いの、それだけで。
こんな気持ち知らない、知らなかった。ぎゅう、と胸が締め付けられてジクジク痛む。
この間まではこんなことなかったのに、一体いつから、こんなふうになってしまったの。
結花の目の前で、浜田が長めに息を吐いた。


「なあ、おまえ悪いことしてるんじゃねーんだぞ。ただ、そろそろ認めてやんねえとあいつがカワイソーだろ」
「・・・・・・」
「オレが言わなきゃわかんねえなんてないだろ。オレよりおまえのが泉と一緒にいんだから」


おまえは、泉のことどういうふうに見てんの。最後に遅れて触れた核心。私は、孝介を・・・。
一緒にいるのが当たり前だった。笑っている時、泣いている時そばにいるのが自然だった。生まれてからずっと一緒で本物の家族みたいで。泉は結花のお兄ちゃんだね、そう友達に言われるのが照れくさくて嬉しかった。
なら、今は。
ねえ、いつから、いつから私達は『幼馴染み』から抜け出そうとしていたの。本物の兄妹みたいで、だけどもうそれだけじゃ嫌で。
本当は気付いていたの。変わってしまう自分が怖くて、身勝手な私を嫌ってしまう彼を想像してしまって。それなら今までの方がましだと、勝手に決め付けて楽な道を選んで、私は彼から逃げ出した。
孝介だけじゃなかったんだ、いつからか私も、同じように。
私は、孝介を。


「す、き・・・」


ぽたり、頬を滴が伝った。
今までそんなつもりなかったのに、一度流れてしまったものはなかなか止まってはくれなくて次々とこぼれ落ちる。
言葉にした途端、全て溢れ出てきた。すき、好き。
私は、孝介が好き。
その刹那、ガラッと教室の扉が開かれた。浜田ー、と怠そうな声。孝介、の。


「なまえ・・・?」
「っ・・・!」


ガタン!その声に弾かれるように席を立って、なまえは泉が入ってきた扉と逆側の出口から教室を飛び出した。
遠くから聞こえる彼の声に耳を貸す余裕もなかった。理由なんてわからない、ただ逃げたかった。彼の顔を見たくなかった。
苦しい、涙が止まらない。
気付きたくなかった、知りたくなかった、こんな気持ち。ずっと一緒に、些細な幸せの中で笑っていたかっただけだったのに。
それ以上なんて求めないのに、どうしてこんなにも苦しい。
誰より大切で何より悲しくて。触れたところから広がる熱を知った瞬間から、私は。
もう戻れない、それでも。胸につっかえるこの痛みを認めるにはあまりに私は幼すぎた。



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