alone | ナノ



なまえの様子がおかしくなってから数週間が経つけれど、未だその態度に変化はなくむしろ日に日に悪化しているように見えた。
向こうからは決して近付いてはこず、こちらから行こうとすればとにかく誰か別のクラスメイトに話し掛ける。それが男子だろうと女子だろうと関係はないようだ。
けれどオレはそれが気に入らなくて、何より結花が自分と話したくないがために他の男子に声をかけているのだと思うと。
素直に苦しいと感じた。一番近いはずなのに、どうしてこんなに、遠い。

自分が、嫌だった。
一度、なまえに無理強いして付き合って、そして別れた。だってそんなのは間違っていると気付いたから。
なのに、なんでオレはまた、こんなふうにあいつを見ているのだろう。
こんなふうに嫉妬するなんて。


「なまえ」


6限目が終わってすぐ、HRの前になまえの席の横まで行く。
やっとノートを写し終わって閉じる彼女が、びくりと反応してゆっくり上に視線をずらす。
のろのろとかみ合った視線。また、不安そうな顔。
相手が困惑しているのなんて気にもせず、彼女の机に両手を乗せた。
立っている自分と座っている彼女。普段はあまり開いていない身長が、今は全然違ってみえる。
教室はガヤガヤと騒がしい。二人を気にかけるクラスメイトはいなかった。
なあ。話しかけてもうろうろと目を泳がせるだけで返事すらしない。自分がおかしいことくらい気付いているだろうに。
はあ、ため息をつくと小さな反応が返ってきた。


「・・・返事しなくていーから、ちゃんと聞けよ」
「・・・」
「おまえに、嫌われても仕方ないことくらいわかってる」
「え、」
「原因つくったのはオレだし、しょうがない、けど」


顔を上げたなまえは間の抜けた顔をしていて、そんな彼女に笑いが込み上げそうになる。こんな話をしているのに、どうして笑えるのか不思議で仕方ない。
話している内容は真剣なものだし、オレだって真剣に変わりはない。けれど以前のような、張り詰めた空気はそこにはなかった。


「オレさ、おまえ諦めるとかできねーし。やっぱ、惚れてる」
「こうすけ・・・」
「わりーけどさ、変えらんねえんだ」


好き。ただそれだけがこんなにも難しい。
苦しんでいる結花も辛いオレも知っているのに、どうしても諦めることはできなかった。
悲しくて苦しくて、それでもたった一つの気持ちだけは捨てたくなかった。他の何より大事とは言わないけれど、今のオレにとって、この気持ちを手放すことは難しくて辛い。それくらい大切で、後に後悔しか残らなかったとしても、オレは。


「だからって勝手に悩んでんな」
「っ、」
「おまえの気持ち無視してまでなんて、思ってねーから」


黙ったままのなまえの目線が止まった。泳いでゆらゆらしていた瞳は戸惑いを映していて、ばちりと視線がかち合う。
まだどこか動揺していて、よそよそしい。泣きそうな顔をしてこちらをじっと見てくる彼女は、確かにさっきまでとは違っていた。


「ごめん、なさい」


たったそれだけ、何に対して謝ったのかはわからない。
オレの気持ちにかもしれないし、避けていたことに対してかもしれない。或いはその両方。
考えて、つきりとした痛みが胸に刺さったけれど、目の前のなまえに手を伸ばしてがしがしと髪を掻き回した。
うわっ。上がった小さな叫びの声はいくらかいつものトーンに戻っていた。
ばーか、言ってやれば眉を下げて笑う。まだどこか元気がないけれど、今はそれで十分だった。


「孝介、授業始まるよ」
「ん、じゃーな」


まだあやふやな笑顔。それでも確かに自分に向けられたそれに、緩んだ頬を隠そうとはせず席に戻った。
ちょうど良くチャイムが鳴って、今まで立ち歩いていた生徒達が慌てて席に戻ろうとする。ばたばた、隣のクラスから戻ってくるやつ、逆に自分のクラスに帰るやつが騒がしく走り回った。


「・・・ごめんね」


そんな雑音の中で籠った呟きが吐き出されたことに、泉は気付かなかった。
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