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好きなこと、好きなもの。
人それぞれ違うのだろうけれど、『好き』だということに変わりはない。
オレが好きなものを、友達は嫌いかもしれない。
友達が好きなものを、オレは嫌いかもしれない。
好き。一言では表せないくらい、実は奥深くてややこしい感情。
オレで例えるなら。
好きな食べ物、イクラ。好きなもの、野球。好きなこと、野球をすること、飯食うこと。
好きな、ひと・・・。


「なまえー」

「んぁ・・・?」

「おら、起きろあほ」

「うひゃっ!?」


ぴた、机に突っ伏してるなまえの首筋に先程冷蔵庫から取ってきた冷たい缶ジュースをくっつけてみた。
予想通り、なまえは飛び上がり片手で首筋を押さえる。
間の抜けたその声に、思わず噴き出した。
当のなまえは、まだ状況が掴めていないのかきょろきょろ視線を動かしながら泉に目を向けた。


「へ、え・・・!?な、ななにいまの・・・!」

「ふは、呂律回ってねー」

「こ、すけ、なにしたの・・・!」

「ん、」


今さっき悪戯に使ったばかりの缶ジュースをなまえの机に置く。
しばらくそれを見つめる彼女。
やっと状況を理解したのか、悪戯されたこととジュースをもらったことで複雑な表情になる。
机の缶に触れて、ありがとうと言った彼女はどこか不満そうでまた笑えてくる。


「よく3分で寝れるよなー」

「・・・私、いつ寝てた?」

「今。人ん家で寛ぎすぎだろ」


ぽかんとしている辺り、まだ目が覚め切っていないようだ。
こちらを見上げてくる彼女の髪をがしがしと掻き回しても、やはり眠たいからか反応が薄い。
自分の缶ジュースのタブを開けて一口中身を流し込む。
口の中で炭酸が弾ける感覚が無性に好きなのだ。
すると、くい、と服を引っ張られ缶を口から離す。
見ればなまえは、缶を机に置いたままこちらを見つめて泉の服を掴んでいた。


「こーすけ」

「ンだよ」

「ん、」


すっと伸ばされた腕は自分に向けられて。
は・・・と疑問を浮かべている泉を結花は見上げる。
まだ目は覚めていないように見えるのに、行動はやけにしっかりしていて両腕を伸ばしたまま黙る。
何が言いたいかわからないわけではないけれど。


「寝ぼけてんなよ」

「・・・こうすけ」

「・・・、」


ようやく絞り出した声でさえ、なまえはいとも簡単に崩してしまう。
縋るような視線にだんだん居心地の悪さを感じてきた。
はあ。ため息を漏らす。手に持った缶をなまえのものと並べて置く。
そのまま手を伸ばしてくる結花の背中を引き寄せた。
抱き寄せるとぎゅう、と背に手を回してくる。
泉も、なまえも、一言も喋らない。
無音のまま時間が過ぎていく。

きゅう、と胸が狭くなる気がした。
熱い、苦しい、痛いとさえ思える。
心臓が騒ぎ出す。まるで身体に何か別の生き物を飼っているみたいだ。止まれ、止まれ。

切ない、いとしい。
なんで、こんなに、オレは辛いんだ。
どうして、こいつは、オレと違うんだ。
オレの感じているもの、なまえには届かない。

こんなにも近いのに。
すごく、遠い。


「・・・ほら、もういいだろ」

「んー・・・」


するりと、さっきとは打って変わってあっさり納得して手を離す。
距離ができた瞬間に少しだけ冷たさを感じたなんて、きっと気のせい。


「ありあとー」


一番側にいたいと、思わないわけではないけれど。
気持ちが伝わればいいと願いたくなるけれど。

何の緊張感も疑いもなく笑うなまえが。
そんな彼女に苛立って、だけど好きで。
もう今さら、好きになってほしいとか気持ちに答えてくれとか言わないけれど。

頼むから、これ以上近付かないで。
諦める時間がほしい。もうこんな思いをしないように。
『好き』を止められるように。

愛情が欲しいなんて言わないからせめて。
当たり前に笑っていたふたりに戻りたい。
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