alone | ナノ



他のやつらは、オレ達の関係を羨ましいという。
けれどそんなのは見てる側だけ。
オレからすれば、こんなに遠くてもどかしい関係なんてない。
そしてそれが自分のことだなんて、考えたくもなかった。


「孝介!」


教室に入るなりオレに近寄ってくる女子。
そんなことをするのも、女子からの名前呼びを許しているのも一人だけ。
事実上幼馴染みの、みょうじなまえ。


「おはよ、お疲れ」

「おー」


なまえは机に向かうオレの後ろを歩き、席につけば机を挟んで真っ正面に回り込む。
いつもなら朝練が終わったらHRまで爆睡するのだが、珍しく余裕の時間に来たにこにこ笑顔の幼馴染みを放置するようなことはしない。

と、いうのはただの言い訳。本当は朝から彼女と話すなんて珍しい出来事に喜んでいたりする。
今朝学校に来る時に真っ黒な猫を見たとか、テレビの占いで一番だったとか、そんなくだらないことでもなまえが話しているというだけで不快感は全く感じなくなる。
簡単な話、それも全部オレがなまえに幼馴染み以上の感情を抱いているからである。

けれどそんなことは言わないし、言えない。
それにはある大きな問題があるからだ。

とても信じがたいことだけれど、クラスの誰も知らないであろうオレの気持ちに、最悪なことになまえが気付いているということ。
考えてみれば当たり前なのかもしれない。
彼女を好きだと自覚してから、変に距離を置くようなことはしなかったけれど、確かに意識するようにはなった。
授業中や休み時間もいつもその姿を目で追っていて、あいつがそれにいつまでも気付かないわけがないのだ。

オレもなまえも、そこまで鈍いわけじゃない。
オレはなまえが好きで、そのことになまえは気付きながらも何も言ってこないし、以前と何ら変わらない態度で接してくる。
それはつまり、


「こーすけ?」

「、・・・何でもねーよ」


いつの間にかオレは考え込んでいて、不思議に思ったのかなまえが顔を覗き込んでいて慌てて視線を逸した。

なんで、なんでそんなことができるんだ。
知ってるくせに、気付いてるくせに。お前は何も言わない。
わかってる。言ったらオレ達の関係が壊れるってことくらい。
でも、それでも。じゃあオレはずっとこのままじゃなきゃいけないのか。
結花がオレをそういう風に見てないって知ってる。
昔から兄妹みたいに育ってきて、そんなやつに恋するなんて馬鹿らしい。

だけど仕方ないじゃないか。
いつからか、なまえのいない時間がもどかしくなった。
手を繋がなくなった時の流れが苛立たしくなった。
成長すればするほど結花が遠くなって、その時初めて彼女が好きなんだと気付いた。

でもお前はそうやって、オレから逃げるんだろう。
壊すのが嫌だから、このままが一番楽だから。

馬鹿げてる。結局オレも、この関係が変わるのが嫌で、結果の見えてる想いを伝えるのが辛くて、なまえの気付かないフリに乗っている。

意気地無しで子供で、情けなくて嫌になる。
どうして幼馴染みなんて関係に生まれたのだろう。
そうでなかったら出会えてなかったかも。だけどそしたら、こんな複雑なことにはならなかっただろう。


「ばーか」

「え!?何いきなり!」


呑気に笑っているなまえを見てると、苛々するのに嬉しかったり。
オレもつくづく面倒くさいやつだ。
いきなりの暴言に頬を膨らます結花を前に、オレは机に突っ伏した。

もしも、もしもだけど。
この関係が崩れる時が来るなら、オレ達を変えてほしい。
できるなら、恋人という方向にしてほしい。
上辺だけじゃなくて、なまえの心の中にまで踏み込める権利がほしい。

膨れっ面のまま、ふわりと黒髪を翻して席に戻る彼女を見つめてふと思った。
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