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「・・・、ごめんなさい」


辛そうな、かお。
わかってる。わたしのせい。
私の言葉が人を傷付けている。
だけどそれより他に良い方法などないと知っている。
下げた頭。その上で彼が息を呑むのがわかった。
私は終始冷静。なんとなく、そういう雰囲気だったのに勘づいていたから。


「・・・そ、か。ま、仕方ないよな」


切なげに笑う笑顔が脳に焼き付く。
知ってる、このかお。あの人と同じ。
けれどあの時ほど悲しい気持ちにはならなかった。それは、相手が『彼』ではないから。

恋なんて、苦しいことばかりだ。

それを知ったのはつい最近で、知ってしまったから、恋なんてしたくないと思った。
誰も苦しめない恋なんて存在しないのだろう。
だったら一層のこと、誰のことも好きにならず、誰にも好かれず在りたい。
そう願えたら、良かったのに。


「あのさ、みょうじって、泉のこと・・・?」


様子を伺うように尋ねられる。
一瞬言葉が詰まる。
ばか、何を驚いているんだ。
確かに彼とは色々あったけれど、それが『好き』に繋がったりはしなかった。
彼は昔からの幼馴染みで、大切な親友。
何でも気兼ねなく話せる彼との時間が大好きで、だからずっと一緒にいた。

そう、もしもほんの少しだけ、過去が変えられるなら。
私が、彼を好きになっていれば良かったのに。


「・・・んーん?そんなわけないじゃーん!孝介はただの幼馴染みだし!」


いつも通りの笑顔で返せば、微妙な表情で納得される。
そんな彼にまた一言謝って、先に屋上を後にした。

誰かを好きになるって、どういうことなのだろう。
恋をしたことはある。けれどそれとは違う。
私たち子供は、愛の伝え方も知らずに誰かに好意を持つ。
想い全てを言葉にすることができない、あのもどかしさには覚えがあった。


「・・・はあ」

「ンだよ」

「あーごめん、孝介じゃないから」


む、と唇を真一文に結ぶ彼。少し不機嫌になった時の癖だ。
自分の態度からの小さな変化に苦笑を漏らすと、フイと顔を背けた泉が、変な顔、と呟く。
その言葉に、結花も今の泉と同じ表情をした。
いくら幼馴染みだからと言って、変と言われて不快に思わないわけがない。
泉の死角に隠れて手に持ったノートをそっと丸める。顔を逸しているお陰で彼は気付かない。
ほんの少しの隙をついて、ポコッと泉の頭をはたく。
いてっ、と聞こえたかと思うと、先程より更に不機嫌になった目と視線が合う。


「何すんだよ」

「人の顔を変なんて言うからだよばかこーすけ」

「ンだよ。いつものことだろ」


泉の言うことは間違ってはいなかった。結花が変な態度を取って、それを泉がからかって。
言われてみれば泉は正しい。加えて、いつも何も言われないことで怒られればそりゃあわけがわからないのも当然だ。
けれど何故だろう。その当たり前に逆らいたくなった。理由はない、唐突にだ。
泉はそれを知らない。今のところ教えるつもりも、ない。


「・・・あのさ」

「ん?」


いつの間にか自分の考えに没頭していたなまえの意識を戻したのは、一拍置いた後の泉の声だった。
目を向ければ何とも言えない表情で、何度も視線をずらした。
もう一度尋ねれば、意を決したのか口を開く。


「・・・昼休み」

「・・・ああ」


たった一言、単語のみで発せられたそれは、確実に会話の核心を付いたものだった。
納得してなまえが頷けば、泉はむすっとした顔でジロリと睨んでくる。
こんな時、彼が酷く幼く感じる。

恋、って、そういうものなのだろうか。
子供染みていても情けなくても、制御することができない。例えるなら、例えにすらならないかもしれないけれど、泉のように意地を張るような性格の人だって、例外ではないのかもしれない。

そんな気持ち、私には早いと思っていた。
その心情を理解することも、ましてや実感することなんて、ないと思っていた。
否、ないとは言い切れない。けれど、私が思っていたのは、今よりもっとずっと先の未来のことだと。
けれどすぐ近くに、悩みの種がいて。やっぱり『愛しい』なんて感情を理解することはまだできないけれど、それが酷くもどかしい。


「お前、どうしたんだよ」

「ふった」

「ふーん・・・」


イマイチ納得いかなさそうな顔。

ごめんね。きみが深く問詰めない理由はわかっているのに。
私にはそれを言葉にすることができないよ。
両方悲しい恋、なんて虚しいのだろう。
どちらかが違っていれば、きっと幸せだったんだ。


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