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最近、何かがおかしい。
何が、と聞かれればはっきりとした答えが返せるわけではないけれど、確実に何かおかしい。
しかも、そのおかしいのは周りの誰かではない。
私だ。
自分のことなのにわからなくて、自分のことだから余計にもやもやして。
この間までと違うことが一つ、あるのだ。
その一つがほんの些細なことならどんなに楽か。気付けば四六時中そのことばかりを考えていて、授業も何もあったものではない。
今この時だって、得意なはずの数学の時間なのにノートは真っ白。何も頭に入らない、いつもできてるはずの公式が浮かんでこない。
相当重症だ。と、とうとう机に突っ伏してしまった。

ここ最近はいつもこんな感じ。テストだってそう遠くはないのに、これではろくに勉強もできない。
長い長い数学の時間が終わって、一息つく。


「なまえー」

「っ、・・・こう、すけ」


後ろから声をかけられ背筋が伸びる。
振り返ればそこには、不機嫌というか不思議そうというか、なんともいえない顔の泉が立っていた。
普段あまり見ない表情にギクリと冷や汗をかきそうになる。
彼は何かと鋭い。それこそ千里眼でも持っているのかと思うくらいに。
自分で気付かなくても、もしかしたら彼の方が先にこの違和感の原因を当ててしまうのではとひやひやする。
何となく、そうなってはいけないような気がした。


「お前、最近おかしくねぇ?さっき数学まで寝てたろ」

「え、そう?」

「どー見たってそう」

「・・・だよねぇ」


はあ、ため息ひとつ。
鬱陶しいくらい脳に浸蝕してくるこの違和感。
なんだっけ、確か随分前にも感じたことがあるような気がする。
うんうんと悩むなまえに泉はただ首を傾げるばかり。
なに、と言いたげなのに結花の困り果てた表情のせいでそうもいかない。


「うん、だからね、なんといーますか」

「意味わかんねーし。落ち着けって」

「むー・・・」


言えば、頭を抱えて唸り出す始末。
結局本人に聞いたものの、何一つ核心をついた話はなかった。
ふと彼女の机に視線を向けると、その上には開きっ放しのノートや放り出されたシャーペンや消しゴム等の筆記用具類。
寝ていたと思っていた授業中もずっとこんな感じだったのかと、呆れたわけではないのに無意識にため息が零れた。


「ほんとね、よくわかんない」

「ナニソレ」

「知らないー・・・孝介のが先にわかっちゃうかもね」

「・・・何で?」

「だって孝介、いつも私のことわかってくれるし」

「、それはさぁ・・・」

「んー?」

「・・・やっぱいい」


お前が好きだから、なんて言わない。
もうそんなのは止めたんだ。気持ちばかりが先走って、なまえが見えなくなりそうになる。

笑顔も涙も全部見せてくれる。なまえだから、好きなんだ。
今までみたいに一緒にいて、彼女の想いの延長線上にオレがいるのか、なんてわからないけれど。
ゆっくり、少しずつ、お互いの意識が変わっていけば良いと思う。
それが、オレにとって良いことでも、そうでなくても。

座っているなまえの髪をくしゃりと撫でる。
まるで子供をあやすようだと思って、口元が緩んだのがわかる。
だがふと見ると、いつも頭を撫でると何かしら言ってくるなまえが、無言のまま俯いていた。


「・・・なまえ?」


やはり何かが変だ。いつもと違う。
ちらり、横目で時間を確認すると休み時間はあと2分。できれば早めに理由を知りたい。
けれど声をかけても彼女は俯いたまま何か唸っているだけ。
しばらく一人で何かと葛藤して、漸く落ち着いた頃にはもう優に1分は超えていた。


「うー・・・うん、ごめん、何でもない」


結局彼女が出した結論はこれ。
嘘つけ、何でもないわけないだろが。そう言ってやりたいけれど、彼女がおかしい原因もわからないで何か言うこともできない。
更になまえ本人がわかってないときた。これはもう手の出しようがないのだ。
仕方なく、泉は適当に声をかけて席へ戻ったのだった。

4時間目。やっぱりなまえは机に突っ伏していた。



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