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こんな関係を望んでいた、と言えば嘘になる。
自分にとって彼女がどれだけ大切で、大きな存在なのか、もしかしたら自分自身ですらわかっていないのかもしれない。
それだけ彼女を想っていて、だからずっと一緒にいて。
だけど、もしかしたらそれは自分を追い詰めていただけだったのだろうか。
本当は嫌だった。
自分に対して何の意識もない彼女が。他の男だと自分にない反応をするのが。
その笑顔を見れて幸せを感じるのは自分だけなのか。彼女にこの気持ちは存在しないのか。
酷く憎らしく愛しい。こんな思いをするなんて、幼いあの頃はこれっぽっちも想像しなかった。
大好きで大切で、だから傍にいようと思った。
だけど自分勝手なオレは、大切な彼女を誰よりも傷付けるのだ。


泉となまえの関係が急変してから、早いものでもう一週間が過ぎようとしていた。
その間なまえは、変に意識してしまっているせいかやたらと恋人らしくしようと振る舞い、毎度ことごとく空回りに終わっていた。
その一連の動作に可愛げを感じると同時に、自分のしたことの非情さに胸が苦しくなるのも確かだった。
そんな時いち早くその様子に気付いて声をかけるのもなまえだったが、おそらくその理由まではわかっていないのだろう。


「うー・・・」


昼、たまたまなまえの席の傍を通った際に、彼女が何かの雑誌を開きながら唸っているのを見て足を止める。
ほんの興味本意で後ろから覗き込むと、彼女の開いているページには最新作の映画タイトルがずらりと並んでいて、彼女の視線はある一点で止まっていた。
それはこの間から度々コマーシャルなどで話題になっている映画だった。
タイトルばかり見つめたところで何も変わるわけではないというのに、相変わらずなまえはそればかりを見ている。


「何、観たいの?」

「わ、孝介っ」


後ろから声をかければ、なまえは驚いたように勢いよく振り返る。
泉の視線はなまえと、その手元の雑誌。
それに気付いたのか、彼女は自分の腕で雑誌のページを隠そうとする。が、もう既に後ろから見ていたのだから、その行動に意味はない。


「観に行くか?」

「え?」

「土曜、珍しく練習ねーんだよ」


そう言えば何故かなまえは不思議そうに見上げてきて。
いいの?何が。久し振りの休みなのに。ただ家にいても暇なだけだろ。でも・・・。何だよ、遠慮とからしくねーぞ。う、うるさいな!だってそーだろ。
どうしてか今日の彼女は酷く遠慮がちで、けれど話している内にだんだんとそれも剥れていく。それが戦略だなんて言ったら、どんな顔をするだろうか。


「で、お前は行きたいの?行きたくないの?」

「・・・行きたい・・・」

「おし」


結局なまえの返事は決まっていた。
わかりやすすぎる、行きたい行きたいというオーラが纏りついている。
幼い頃から彼女と映画に行くことは度々あったが、これほどまでに遠慮されたのは初めてだった。
それは今の関係のせいなのか、それともただ単に自分を気遣ってのことなのか。


「土曜、10時にお前ンち行くから、寝坊すんなよ」

「しないし!」


失礼な、とでも言いたげになまえは頬を膨らます。
そんな彼女の頭をぐしゃぐしゃと掻き回せば、うわっと何とも可愛げのない声が上がる。
泉の腕を払って、手櫛で乱れた髪を整える。
その様子が先程と打って変わって女らしくて、ついつい視線を外してしまう。

一体いつから、彼女はこんなに女になってしまったのだろう。
考えてみれば、中学に上がってからのなまえは妙にモテ始めたりして、そりゃあもう毎日嫉妬ばかりだった。
そんな中で時々、彼女は好きな人ができたと報告することも何度かあって、今思えばあの中学時代は苦労しっぱなしだった。
それでも、今のこの状況に比べればまだ良かったのかもしれない。


「孝介?チャイム鳴るよ?」

「、おお」


席の離れたなまえに一時別れを告げて、泉は席に戻った。
その後、土曜の約束がデートになるのかと一人悩み続けることになるなんて、本人は気付きもしなかった。

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