U・シンデレラヴィジョン | ナノ



最近気付いたことがある。
俺、幸村精市の彼女、水竿芽夢は予想以上に俺を神格化するまでに溺愛しているらしい。もちろん他言はできない。なにを惚気ているのかと呆れた目で見られるに違いないからだ。
なぜ、俺がそう感じるようになったのか。それには度重なる芽夢本人の言動が主な理由だ。


「嫌がらせか何か知らないけど、学科の子に精市くんに渡してってメアド渡されたから、ちゃんとトイレに流しておいたよ」


そう言われたのが一週間前のこと。そして昨日が「精市くん盗撮されてたみたいだから彼女の権限フル活用で消してもらった」だ。ちなみにどちらも見事なまでの満面の笑みで。
俺の彼女はそれまでの怖がりっぷりを振り払ってしまったらしく、近頃恐ろしく逞しい。元の性格に近くなってきてはいるし、自信に満ちていく彼女を見ているのは俺も嬉しい。しかし、その矛先がおかしくはないだろうか。俺の彼女の虫除け対策は完璧だ。これがもしも再びラクロスステッキを手にしたら、虫除けから害虫駆除に駆り出しそうなほどである。芽夢は金と最低限の成績に関わらなければ残りを全て俺に費やすくらいに一直線だ。猪もびっくりだよ。ぶっちゃけドン引きでもある。これで頑張って稼いだバイト代まで注ぎ込まれたら完全に俺が誑かしているみたいになってしまうが、幸いそれはないようで安心するしかない。そんな俺の最近の悩みは専ら、誰か俺の彼女止めてくれないかなぁ、である。ちなみに本日のメインテーマでもある。


「それを本人に言う?普通」
「普通に考えて誰も止められなさそうだったから。これはもう自覚させるしかないかなって。止めるだけなら俺にも出来たかもしれないけど、ほら、怖がられたいわけじゃないから」
「ねえ精市くん何をするつもりだったの?イップス!?」


軽く芽夢が身を引いて自分の手でその細い肩を抱く。うん、我ながら初々しいカップルの会話とは思えない。確かに付き合って、というか学校が始まって良く会うようになってからは甘い空気もむせかえるほど経験したが、お互いあまりそういったことは得意ではないのだ。いつの間にやら、以前までの友人関係のように過ごすことが増えてきている。そんな中でも、芽夢の虫除けは徹底していた。おかげで、中高生時代ほどとはいかないまでも受ける回数自体はそれなりに多かった告白の類は綺麗になくなった。彼女というより番犬並みの成果だ。
まあ、今問題になっているのが正にそれなわけだが。


「芽夢、俺に無理に時間を割く必要はないんだよ。それに、おまえが憎まれ役になることだってないし、さすがに俺も嫌なことは直接相手に言える」
「……ん」
「過保護な母親じゃないんだから」
「母親に見える…?」
「うん見えないね。見えないから言ってるんだよ何でそこで寂しそうな顔するの可愛いな」


おっと本音が。困ったことに、俺も大概この面倒くさい子に惚れてしまっているらしい。いや困ってないけど。
妹でも犬でも母親でもなく、"恋人"が良いんだろうなあ。それが分かってしまうからどうにもこうにもむず痒くて仕方ない。しかしこれでは堂々巡りだ。ブランクはあるがウン年間の片思いの末に結ばれた彼女がいくら可愛いからといって、何でも許容していたら互いのためにならない。ただ、昔から変わらない童顔の、ガラス玉のようなくりくりの瞳に見上げられることに、俺は恐ろしく弱い。だって可愛いと思ってしまうのだから。好きなものは好きなんだからしょうがないとかそんな決まり文句があった気がする。正にそれである。俺の彼女は今日も可愛いです。いや待て今日のテーマはそんなことではないだろう。


「だからね、芽夢」
「精市くん」
「ん?」
「精市くん、の…ためじゃない…」


ぼそぼそと小声で呟かれた内容に、首を傾げた。芽夢はまるで叱られるのを怖がる子供のようにこちらを見上げてきて、いやだからその目弱いんだってばなんか罪悪感生まれるんだけど。まだ何も核心について言われていないのに許しそうになってしまう。踏ん張れ俺。冷静になるんだ精市。何でもないような表情を作って、芽夢の言葉の続きを待つ。


「…私が嫌なの。精市くんが誰かと仲良くなるの、私が嫌だから…邪魔してた」
「……」
「それに、精市くんは強い子の方が、好き、でしょ」
「……」


えーと、つまり、あれだ。どれだ?
芽夢は思った以上に俺を溺愛していて、おまけに独占欲もしっかり同じくらい持っていて。俺が最初に好きになった芽夢に、何とかなろうと頑張っていて、実はまだこんなに怯えたりもしているわけで。
何こいつめちゃくちゃ可愛い。


「……なんかさ」
「う、うん…」
「芽夢って時々ものすごく飼いたいって衝動に駆られるよね」
「どういうこと!?」
「ごめん冗談じゃない」
「冗談って言ってほしかったよ精市くん!!」
「ごめんね冗談だよ。一割くらい」
「つまり本気!!」


意味が分からない…、と芽夢が頭を抱えてうなだれた。芽夢の可愛さを知らないなんて芽夢は可哀想だなあ。いや、別に自意識過剰になれとは思っていないが。
しかし確かに、芽夢の言うことは一理ある。俺も未だに芽夢に近づいて許せる男は日高雅人ただ一人だけだし、それだって快くというわけではない。もしも知り合いの男から芽夢宛てにアドレスを預かったりしたら、わざわざトイレなんて行かずに受け取った瞬間に引きちぎる自信がある。というかアドレスを渡したいなんて感情さえも起こさせないだろう。万が一そんな男が現れたらイップスだイップス。
なるほどそう考えると、芽夢の言動は何らおかしいことはない気がしてくる。むしろ嫉妬して独占欲を抱いてくれているんだぞ、あの、芽夢が。ほんの一年前まで俺になんか見向きもしない寧ろ忘れてさえいたという芽夢がだ。サイズ的に本当に飼い犬みたいに見える時もあるけれど、やっぱり恋人だと自覚できるこういう瞬間ほど心地いいものはない。良くも悪くも一直線な芽夢に、焦らされるのも悪くはない。芽夢限定だけどね。


「どんな芽夢でも良いのに」
「…私も、どんな精市くんも好き」
「……直球バカ…」
「ひどい!」


いや、これは照れるなと言う方が無理。
なんだかんだ言って、この子には絶対適わないんだろうなぁと俺はどこかで悟ってしまっているのだ。芽夢本人は気付いていないようだし、ここは男としての面目も考慮して黙っておくことにしよう。

あ、そうそう、最初のテーマは変更ということで。
逞しいようでやっぱり折れやすい俺の彼女は今日も直球バカで可愛かったです。うん、これで行こう。
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -