U・シンデレラヴィジョン | ナノ



八月某日、芽夢のもとに一本の電話がかかってきた。


「夏祭り?」
「そう!芽夢も行くでしょ?浴衣買いに行こうよ」


学校でも比較的仲の良い女の子からだった。何でも、今年初めて出来た彼氏と夏祭りに行くことになって、浴衣を見立ててほしいとのこと。色白で黒髪ロングヘアーの純日本女子といった雰囲気の彼女ならば、何でも似合うと思うのだが、そんな簡単にいかないのが恋する乙女というもの。電話口で興奮気味に語る友人に、少し笑いながら了承した。夏休みに入ってからアルバイトを始めたのだが、初任給をもらうのは二週間も先だ。しっかりとした物は買えないだろうから、行くならショッピングモールだろう。金欠時に安請け合いをしたものの、自分と恋人ともう長い付き合いということもあって、彼女のように初々しい恋愛談はなかなか羨ましくもある。夏祭りは二日間ある。どちらか一日の夜くらいなら、仕事にコーチにと忙しい彼も時間を開けてくれるかも知れない。ほんのりとした淡い期待だ。

飲み会の日から、半月が過ぎた。幸村と会ったのは、あの日が最後だった。互いの連絡先を知ってはいるものの、今まで活用したことはほとんどなく、今もそれは情報として手元の携帯電話に存在しているだけ。あの後、幸村が何を思って、どう日常を過ごしているか、芽夢は知る由もないし、それは向こうも同じだ。また学校で。そう別れたものの、次に授業があるのは来月。サークルで学校に行くことはあっても、偶然彼に会う可能性なんて限りなく低い。夏休みに入る前まで、毎日のように顔を合わせていたのが嘘のようだ。今思えば、きっと自分は無意識に彼を探していたのだろう。夏休みが明けても、以前のように友人だと笑って言えるだろうか。それだけが、気がかりだった。

寸胴の方が着物映えが良いとはいうが、それが確実に女性らしい美しさを引き立てるという意味ではないということを芽夢は思い知った。日本女子な友人の浴衣は比較的早く、深い紫を基準とした大人の女性らしい色合いの浴衣に決まった。問題は、本来付き添いで来ただけの芽夢の方だった。幼い顔立ちと低い身長から、彼女のような大人向けの色合いは不釣り合いで、だからといって明るい色に大きな柄の浴衣なんて選んだらただの中学生だ。洋服のように簡単にはいかないものだと、芽夢も友人も大いに悩まされた。店員含め三人で悩みに悩んだ末、芽夢が選んだのは深い藍色の物。定番の花柄ではなく、細かく金魚の柄が散りばめられたデザインで無理やり背伸びをしている雰囲気もない。多少値段は張ったものの、自分に似合わないものを着て不格好になるのだけは御免だった。それなりに、身なりには気を使っているだけ余計に。大きな紙袋を抱えながら、隣を歩く何でも似合う友人が羨ましかった。金欠を無視して奮発したのだ。褒め言葉の一つでも貰わないと割に合わない。なんて、まだ初々しい恋愛をしている友人にはとても言えなかった。

な、の、に。
こんなことって、あるのか。いや、お約束といえばお約束なのだが。気合いを入れたら入れた分だけ空回る体質なのかと疑ってしまう。
ごめん、今日帰れなくなった。そんな連絡が入ったのは、芽夢が既に浴衣に身を包み神社まで足を運んだ後だった。また、またこのパターンか。最早怒る気にもなれない。一昨日は行けるって、言ったのに。けれど、電話でなくメールで済ましてきたのを考えると本当に忙しいらしい。文句を言うのは、また後日にしておこう。芽夢も特別イベントを重要視するタイプではないし、デートならまた別の日にすれば良い。

けれど、ここまで来て何もしないというのも何だか癪だ。せっかくだし、たこ焼きでも食べようかなあ。なんて、神社の階段を登った矢先のことだった。


「うおっ!」
「え、わっ…!」


どんっ。何かにど突かれた。思い切り。背後からの衝撃に身体が前のめりになる。浴衣のせいで上手く手が前に出ない。転ぶ、と固く目を閉じた時、腹の辺りに回った腕に身体を支えられた。帯を締めていたこともあって、思わず呻き声が上がる。


「す、すんません!大丈夫っすか!」
「あ、はい……あれ」
「えっ?……あ」


支えてきた誰か、を振り返って硬直。覚えのある焦った顔に、二人してまばたきをする。


「……赤也君…」
「あ、そうだ!幸村さんの友達のっ!」


癖のある黒髪に、猫のように吊った瞳。彼に思い切りど突かれるのはこれで二回目なのだが、何か縁でもあるのだろうか。支えてくれた腕から離れて、ほんの少しずれた帯を上げる。向き合うと、彼は再度申し訳なさそうに謝罪を入れてきた。


「すんません、浴衣大丈夫っすか?」
「大丈夫だよ。今日はなんで走ってたの?また真田さんに怒られた?」
「……」
「え、ほんとに?」
「いや…怒られるのは多分、これから…」


途端に、顔色を悪くしてしまった赤也に何だか悪い気になる。どうやら、真田との待ち合わせに盛大に遅刻してしまったらしい。確かに、時間に限らずそういったことには厳しそうな印象はある。自分とぶつかったことで足止めされて余計に時間を食ってしまったし、この前のように顔色を蒼白される彼は何だか可哀想であまり想像したくない。…まあ、どうせ暇だし。


「赤也君、私にちょっかいかけられて遅れたことにしちゃおう?」
「へ?」
「私も真田さんに謝るから、一緒に行こうよ」
「マジっすか!?うわぁあ幸村さんの友達神!」
「あ、水竿芽夢ね、私。赤也君、名字は?」
「俺、切原っす!」


なるほど、切原赤也くん。ぱああ、とまるでひまわりが咲いたような笑顔の赤也に、芽夢も頬が綻ぶ。純粋な子供のような、幸村とは少し違ったタイプの笑顔。どんな種類であれ、人が笑っている顔というのは見ていて気分が良い。真田に嘘をついてしまうことになるが、たまにはこういうことも悪くはないだろう。隣に並ぶには人混みに邪魔されてしまうため、赤也を前にして縦列で神社の中に踏み入った。彼もそれなりに背が高いため、見失うことはない。


「ね、赤也君、チョコバナナ食べたい」
「あ、良いっすよ。屋台そこにあるんで」
「うん」


少しくらいの寄り道、こんな日なのだから許されるだろう。せっかく祭りに来たのだから、と芽夢は赤也のTシャツの袖口を軽く引いて屋台に誘った。


「おじさん、一本ください」
「はいよ。ジャンケン勝ったら二本だよ」
「水竿さん、グーっすよ!」
「言ったら意味ないでしょ、もう」
「その方が面白いじゃないっすか!心理戦っぽくて」
「はいはい、じゃーんけーん」
「ぽいっ」


あ。芽夢と赤也、屋台のおじさんの声が重なる。小さな石と、大きなハサミ。赤也のアドバイスも結構役に立つものだ。裏をかかれたなあ、なんて言いながら豪快に笑う店主に芽夢も笑い返す。普通のミルクチョコと、ピンク色のチョコでコーティングされたバナナを品台から抜き取る。ありがとう、おじさん。両手が塞がっていて手は振れなかったが、代わりにチョコバナナを軽く揺らして屋台に背を向けた。「ラッキーでしたね」と言う赤也に、芽夢は黒い方のそれを差し出す。


「はい、どうぞ」
「え、いいんすか」
「二個もいらないから食べてくれると助かります」
「やりぃ!いただきまっす!」


ひょい、と芽夢の手から割り箸の部分を受け取ると、赤也は豪快にバナナにかじりついた。一口がやたら大きかったのか、バナナはもう三分の二くらいの大きさになっていた。健康的で宜しい。


「赤也!!」
「っ、げほっ!?ぐ…っ」
「えっ、赤也君…!?」


二口目、をかじった瞬間だった。背後からの怒号に赤也が肩を跳ね上げたかと思うと、ごほごほと咽せだした。慌てて咳き込む彼の背中を上下にさする。どうやら喉に詰まったわけではなく、単に驚いただけだったらしい。息の荒い赤也と一緒におそるおそる振り返ると、一際強い威圧感を放つ背の高い男が仁王立ちをしながらこちらを睨んでいた。まるで般若の面だ。ずかずかと大股で歩み寄ってくる彼に、芽夢も赤也も思わずたじろぐ。


「赤也、おまえというやつは!時間は守らん上、連絡も寄越さず!たるんどるぞ!!」
「ひぇっ…」
「あ、あの真田さん、これには訳が…」
「む…」
「あれー水竿さんだ、赤也と何してるんだい?」
「っ」


どきり、心臓が大きく跳ねて、一瞬止まった。仁王立ちの真田の影からひょっこり顔出したその人に、言い訳の言葉をうっかり飲み込んでしまった。一緒にいるかもとは予想していたが、まさか真田の後ろにいたなんて。この中では一番最近に会っているはずなのに、何だかとても懐かしい気になる。


「幸村さん…こんばんは」
「うん、こんばんは。久しぶりだね」


何でもない挨拶が、こんなに難しいなんて思わなかった。いつもの自然な笑顔で振る舞う幸村と違って、自分はきっと変な顔をしてしまっているだろう。不意に、幸村はくるりと踵を返して「赤也見つけたー」なんて後方に呼びかける。まだ、誰か一緒に来ているらしい。人混みからぞろぞろと現れた姿に、芽夢はぎょっとした。茶、赤、白。理想の食卓よろしく色とりどりな頭髪をした男性数人が、あきらかに幸村に向けて手を振っていた。


「おい赤也ー、自分から誘っておいて遅刻とか成長しなさすぎだろィ」
「予想通りすぎて、ほんと期待を裏切らない奴だな」
「私なんて、わざわざ他県から足を運んだというのに…」
「あー幸村が変なタイミングで呼ぶもんじゃけん、イカ焼き買い損ねちまったぜよ」
「ここの祭りは、毎年イカ焼きの屋台は二カ所しか並ばないからな」


カ、カラフル…。呆然としながら呟いた芽夢に、隣にいた赤也と聞こえてしまったらしい幸村が吹き出した。いきなり現れた知らない人のあまりに突飛したビジュアルに度肝を抜かれてしまった。いや、正確にはあの中にも一人だけ、知っているどころか試験前にえらく世話になったデータマンが居るのだが。この大きな祭りに出てる屋台の種類を全て記録しているのだろうか。幸村、赤也、真田、柳。これだけ知っている顔が揃えば、この集団が何なのかという予想は大体つく。


「テニス部大結集…?」
「そう、高校までのレギュラー陣」


芽夢も頭の色はそこそこ奇抜に走った方だが、ここまで真っ赤で真っ白な人はそうそう見ない。しかも全員過去のレギュラーときた。立海テニス部は派手だというイメージは中学生の頃からあったものの、まさかここまでとは。


「で?赤也は遅刻した挙げ句、どうして水竿さんと仲良くチョコバナナなんて食べてるの?」
「え!?えっと、」
「あ、あの幸村さん」


うん?と可愛らしく首を傾げる彼は、見た目こそ花のように美しかったものの、その裏から滲み出る威圧感は到底花と呼べるものではなかった。平たく言えば、怖い。しかし赤也に一緒に謝ると大見得きった手前、ここにきて幸村さんが怖いですなんて理由で引くわけにはいかない。


「えっと、赤也くん私と道端でぶつかっちゃって、遅れたお詫びにチョコバナナ買っただけなんです」
「…ふうん」
「だから、別に赤也君のせいじゃないんです。許してあげて下さい」
「そっか、うん分かった」
「え?」
「え?」
「…怒らないんですか?」
「うん、だってそしたら水竿さんも怒らないといけないだろ。俺、水竿さんには怒りたくないし、なあ真田」


にこり、幸村が微笑むと真田は慌てたように強く同意した。冷や汗が浮かんでいるように見えたのは、気のせいなら良いなと思い触れずにしておく。なんというか、元テニス部の輪の中にいる幸村は、普段と少し雰囲気が違う。部長をしていた頃の名残か、発言にも態度にも威厳を感じることもあれば、それが時折理不尽な方向に向かう悪戯っ子のような一面もある。周りはそれを許容しているのか畏怖しているのか、文句を言う素振りもない。それでも、信頼のもとでなければ有り得ないことなのだろう。


「幸村君、その子だれ?」


不意に、後ろにいた派手な集団の一人が声を上げた。その赤髪の彼は、左手に焼きそばを抱え右手の箸で芽夢を指していた。ああ、と思い出したように呟いた幸村は、彼らを振り返った。箸で人を指すことに誰も注意をしないのは、意外だった。真田や柳はそういったことにうるさそうだと思っていたのだが。


「俺の後輩で、水竿芽夢さん。真田と、柳は知ってるよな」
「いえ、私も知っていますよ。水竿さんといえば中等部の頃は女子ラクロス部の部長として有名ではありませんか」
「え!?水竿さんって中学高校も立海だったんすか!えっていうか後輩!?俺とタメ!?」
「あーそういや何かラクロス部って強かった気がする」
「中学では全国三連覇だったろ、確か」
「ぜんっぜん覚えとらんぜよ」
「仁王君は女子部への関心がまるでありませんでしたね」
「プリッ」
「ふふっ…みんな、煩いよ」


ぴたり。賑わいでいた元テニス部員の喋り声が止まる。さすが元部長。一部が怖々と幸村の顔色を窺っているように見えたが、まあ気にしない方向で。これ以上は言うな、というような威圧感を悟ったのか、みんな一斉に黙ってしまう。多分、なのだが、困っていた自分を気遣ってくれたのだろう。


「水竿さん、赤也なんかに構ってて良いの?」
「え?」
「もしかして、またドタキャン?」
「……」
「…え、ほんとに?」


くすくすとからかうように笑っていた表情が、ぴしりと固まる。その言葉は、先ほどの自分と赤也を連想させる。間違いなく不可抗力だったのだが、幸村は確実に芽夢の痛いところを貫いた。そういえば、以前もデートをドタキャンされたのを見られていたと思い出す。ごまかすようにへらっと笑えば、悪いことをしたみたいに困った顔をする幸村。本当に、相変わらず自分は彼を困らせてばかりだ。あのさ、と控えめにかけられた声に、小首を傾げる。


「良かったら…俺たちと回らない?」
「…え、」
「嫌なら、無理にとは言わないけど」
「良いっすね!水竿さん一緒に行きましょうよ!」
「でも、今日はみんなで来たんじゃ…」
「一人増えたって変わりませんって!チョコバナナのお礼まだしてないし!」
「ふっ…赤也に気に入られたな」
「そっ、んなんじゃないっすよ柳さん!!」
「……で?赤也は何だかもうその気みたいだけど?」



え、と。言葉が詰まる。周りを見ても、賛成なのか興味がないのか、反対意見を言う者はいなかった。赤也はまるで犬のように期待した目をしているし、極めつけに幸村のどこか不安げな表情。この人に、そんな顔をさせて断るなんて出来るはずがない。ありがとう、ございます。戸惑いながら小さく頭を下げれば、不安な顔はふわりと花開いて綻んだ。かっこいいなんて、ずるい。良かった、なんて嬉しそうに笑わないで。あの日を思い出してしまいそうになる。
一緒に歩くことになっても、手が触れることはもうない。真田と先頭を行く幸村から少し離れて、赤也と並んで歩いた。多分、それが正しい距離。誘ってくれたことは素直に嬉しい。だから、この距離を見誤ってはいけない。もう二度と。

しばらく屋台を見て回ったり、射的に夢中になる赤也を丸井とたこ焼きを食べながら眺めたり、型抜きがやたら上手い柳に感嘆したり、おもちゃの剣を持たされて神妙な顔をした真田に幸村が笑ったり。賑やかだからこその楽しみを、芽夢は久しぶりに実感した。何だかんだで、元テニス部レギュラー陣の人は皆芽夢にも優しかった。天才的なんたらでパチンコ台を大当てしてあんず飴を大量に取得した丸井に分けてもらったりもしたし、赤也にはチョコバナナのお礼といって大きな綿あめを半分こしたりもした。こういう経験は、芽夢にはあまりなかった。というより、留学するより前のことは、あまり印象に残っていないのだ。ドタキャンされてすぐに帰らなくて正解だったようだ。


「む、人混みが増えてきたな」
「もうじき神輿が通る時間だからな」


柳の呟きに、腕時計に目をやる。もうすぐ七時。神社に来たのは夕方だったから、知らず知らずの間にもう随分楽しんでいたようだ。柳が言った通り、次第に人は増え前方からは神輿を担ぐ時のあの独特の掛け声が聞こえてくる。どうやら、この神社の敷地内をぐるりと一周するようだ。「両端にはけよう」そう言った幸村に頷き、神輿が通る道を開ける、つもりだったのだが。


「っ、わ…!」


小さな悲鳴。人混みに押されて呑まれてしまう。隣にいた赤也は逆側にはけたようで、芽夢は一人で大衆の波にさらわれてしまった。低身長の自分は流れに抗えないし、浴衣と下駄のせいで足も上手く開かない。どん、と誰かにすれ違い際に肩を突っぱねられて身体が後ろに揺らぐ。こんな混雑の中で尻餅なんてついたら間違いなく蹴り飛ばされる。そう思いながらも重力に従う身体は自分ではどうすることも出来ない。


「おっと、」


ぐっ、と腕を誰かに持たれた。倒れかけでバランスを崩した身体を引き寄せられて、正面の誰かに突っ込むようにして受け止められる。ふう、と軽いため息が頭上からして、芽夢は慌てて顔を上げた。ふわり、銀が揺らぐ。


「え…?」
「チビだと苦労するんじゃのう」
「…あ、仁王、さん」
「プリッ」


偶然にも抱き留めて転ぶのを阻止してくれたのは、カラフル集団の一人、仁王だった。独特の口癖や珍しい名前は印象的ですぐに覚えられた。


「あー…誰も見当たらんのう」
「えっ」
「完全にはぐれちまったみたいじゃ」


仁王は遠くを眺めるように手を額に翳して辺りを見回す。これだけ背の高い彼が探しても見つからないということは、本当にバラバラになってしまったらしい。連絡を取ろうにも、このざわめきの中では電話をかけても気付いてもらえなさそうだし、もし繋がったとしても周りが煩くて会話にもならないだろう。
「一旦静かな場所に出た方が良さそうじゃな」
「あ、…はい」
「なんじゃ、よそよそしいのう。怖いんか」
「あ、いえ違うんです。すみません、助けてくれてありがとうございます」
「たまたま見かけただけじゃよ。またはぐれんようしっかり着いてきんしゃい」
「は、はいっ」


するり、と綺麗に人混みを交わして歩き出す仁王。遅れそうになりながらも、芽夢もその背中を追った。
ちくちくと、背徳感が胸を指す。幸村、かと思った。いつも、困った時に助けてくれるのは彼だったから。彼でなかったことに落胆したわけではないのに、何だか不自然に感じてしまう。やだな、まだ煩悩ばかりが蠢いている。忘れられないよ、そう簡単には。
数歩前を行く仁王の背中に、二人の人間の姿を重ねた。
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