U・シンデレラヴィジョン | ナノ



※このお話は性的表現を用いています。
このお話を読まずに進んでも話の展開に支障はないので、苦手な方や一定の年齢に達していない方はブラウザバックしたのち、一つ後のお話からお楽しみ下さい。










そっと、なるべく音が鳴らないよう丁寧にドアを閉めた音がした。先に靴を脱いでいた芽夢は、どうにも振り返れずに先に奥へ進む。肩掛けの小さめな鞄をカーディガンと一緒にかけて、もう一つの荷物も預かろうと振り返れば軽い衝撃に目が眩んだ。目の前に押し付けられた逞しい胸板と、髪の間に入り込む指先に心臓が踊る。ほのかに香る酒と煙草の匂いに、くらりと眩暈がした気がした。まだこの部屋に着いて落ち着いてもいないのに、行き急ぐように腕に閉じ込められてその腕の心地よさに目を閉じる。頭を撫でて上下する手が愛しい。そっと瞼を持ち上げれば、彼の鞄は乱雑に床に放り投げられていた。優しく、その手に上を向くよう促されて、それに従えば涙を流して赤くなっているであろう目元に熱い唇が落とされる。泣きすぎてすっかり化粧も落ちてしまっているだろうと思うと、少し顔を隠したくなった。


「芽夢、」


初めて呼ばれた名前に、また切なくなる。
あれから、芽夢は幸村と二人で店に戻った。酔っ払った芽夢を駅まで送ると名乗り出てくれた仲間に、恋人が迎えに来るからと断りを入れ、その恋人にも適当な理由をつけて迎えはいらないと連絡を入れた。酔いに浮かされていたわけではない、少なくとも芽夢は。もしそうだとしたら、わざわざ一人で別行動を取って再度彼と待ち合わせる、なんてことは出来なかっただろう。街頭の少ない通りの小さなコンビニの前で再会をした彼に、自然と取られた手を引かれて着いて行った。人目を避けるような逢瀬に、これから悪いことをするのだという自覚はあった。たどり着いたホテルで部屋を選択する彼の横顔を見て、芽夢は半ば夢を見ている気分になった。まさか、幸村とこんな場所に来ることになるなんて。
許されることではない。けれど、迷いはなかった。


「体調はどう?」
「もう、大丈夫です。だいぶ時間も経ちましたし」
「そう、良かった。じゃあ先にシャワーどうぞ」


巻き付いていた腕が解かれて、大きな手のひらにくしゃりと頭を撫でられる。そのやり取りに気恥ずかしくなるものの、芽夢は素直に頷いて幸村に背中を向けた。
一人では広すぎるくらいの浴室で、頭からお湯を被りながら芽夢はその日を振り返った。もともと、こんなことをするつもりではなかった。ほんの数ヶ月前に駅で会った時のように偶然が重なって、導かれるようにここまで来た。彼とそういう関係になることが何を意味するか、分からないわけがない。だけど、やっぱり幼くて弱い素直な心には逆らえなかった。
シャワーを浴びて女性用のフリーサイズのバスローブを纏う。体格が小さいから、気を付けないとすぐにはだけ落ちてしまいそうだ。どうせすぐに必要なくなるのだからと、下着はつけなかった。バスタオルを肩からかけて幸村の元に戻れば、ベッドに座って有線のチャンネルを弄っていた手が止まる。ゆっくり立ち上がって近寄ってきた彼の手が、まだ水気を含んだままの髪の毛の先を摘んだ。


「おかえり」
「た、だいま」
「うん。俺もシャワー浴びるから、その間に乾かしときな。風邪ひいたら大変だからね」


素直に頷いた芽夢に、幸村は満足げに笑った。ずいぶん落ち着いた様子の彼を見送って、芽夢は先ほどまで彼が座って皺になっていたところに腰を降ろした。備え付けのドライヤーをコンセントに繋いで、ちゃんと言われた通りにするあたり自分は随分彼に従順だと思った。十分もしないで戻ってきた彼は、芽夢より大きいサイズのバスローブをしっかり着こなしていた。烏の行水。加えて、髪は先ほどの芽夢よりも濡れていてぽたりと水滴が床に落ちるのが見えた。


「幸村さん、髪」
「んー」
「風邪、ひいちゃいますから」
「ん、じゃあ芽夢が乾かして?」


甘えた声に、芽夢は息が詰まる思いをした。そんなふうに言われて、嫌だなんて言えるはずがない。彼を今居たところに座らせて、芽夢はベッドに乗り上げて彼の後ろに回った。ドライヤーの温い風が幸村の濡れた髪に当たる。バスタオルで水気を拭って、片手を使って髪の毛を解すように乾かす。ふわふわと癖のある髪は、やはり染色で少し痛んでしまっている自分のものよりずっと柔らかくて綺麗だった。髪の毛も、まめで固くなった手の平も、優しく言葉を発する唇も、彼を形成するものの全ては、綺麗という言葉が似合う気がした。ああ、どうやら相当この人に惚れ込んでしまっているようだ。


「幸村さん、もう良いですよ」
「うん、ありがとう」
「はい、どういたしまし、て」


途中に言葉が詰まったのは、不可抗力だ。振り向いた彼の指がするりと芽夢の手のひらを捕らえて、まばたきをする暇もなく強く身体を引かれた。ごとり、 手から離れたドライヤーが床に落ちる音が聞こえたが、突然与えられたキスに意識は全部持っていかれていた。後頭部を押さえられて、啄むように何度も口付けられる。頭が麻痺したみたいにぼうっとしてきたタイミングで、もう片方の腕を使って身体を抱き上げられて小さな悲鳴が上がった。短いキスを繰り返しながらベッドの真ん中に身体を降ろされ、まだ何もしていないのに身体が疼き出すのを感じた。遠慮なく小さな身体に覆い被さる幸村は、さっきと変わらず酷く熱っぽい瞳をしていた。上から見下ろされる感覚に、ざわりと心が刺激される。「水竿さん」いつもの呼び方に、もう違和感を感じている自分がとても醜いような気がした。


「後悔、しない?」
「し、ません。幸村さん…好き」
「…うん、俺も。大好き」


いつだって芽夢を優先してくれる彼が好き。少年のように笑う顔が好き。熱い唇も、身体を全部包み込んでくれる腕も好きになった。
そっと額に唇が押し当てられて、彼の片腕がベッドスタンドのライトを消せば部屋全体が暗がりに包まれた。明るいのは嫌だけれど、彼の顔が見にくくなったのはもったいないような気がした。
額に、瞼に、頬に、唇に優しいキスが降り続けるのを受け止めていたら、不意に感じた開放感。幸村がバスローブの紐を引いて、簡単に開かれた隙間に手を差し込む。初めて素肌に感じる彼の熱に、もう頭がくらくらしてきた。酒のせいにしてしまえたら良いのに、悲しくも意識ははっきりしていて酔いはもうほとんど冷めてしまっている。両手でバスローブを肩から落ちるまで広げられて、まじまじと見られる恥ずかしさから顔を逸らした。


「ちょっとだけ焼けてるね」
「あんまり、見ないでください…」
「恥ずかしいから?」


素直に頷けば、彼が目を細めて笑った、気がした。日焼け痕を見られるなんて、恥ずかしくないはずがない。普段から気を付けているからくっきりとした線になっているわけではないが、少し目を凝らせばやはり色が違うのは分かる。ごめん、と悪びれもなく言いながらあやすようなキス。随分、誤魔化すのが上手い人だ。静かに、いたわるように手のひらが肌に触れて、撫でながら腹を這う。首もとと、二の腕に移動するその感触に身を委ねる。日焼けのあとをなぞるように撫でて、まるでそれさえも好きだと言われているみたいだった。まるで初めてするみたいなどこまでも優しい行為に、彼の気持ちを感じているようで嬉しかった。


「ゆき、むらさん」
「精市」
「…っ」
「芽夢も、名前で呼んで。ね?」


首を傾げる仕草を、愛らしいと思った。ゆっくり、促されるままに彼の望む呼び方をすれば、ご褒美に大好きな笑顔を見せてくれる。気持ちを与え合う、ってこういうことなのかと、その笑顔に魅了されながら感じた。
長い時間、子犬が戯れるように触れ合った。キスをして、抱き締めあって、その中で与えられる優しい快楽に全てを預けた。初めて、ではないのに、まるでそうだと錯覚させるような行為に魅せられて、どうしようもなく恥ずかしくもなった。そう伝える度、彼は頭を撫でながら気持ちの準備が終わるまで待っていてくれる。
名前を呼ばれる度に、好きが増えていって壊れてしまいそうだと思った。それでも良いかも知れない、とも。


「今、何考えてる?」
「っ、」


限りなく近い距離で囁かれて、我に返った。笑っているのに、少し寂しそうな顔をしている彼の両頬を手のひらで包んで「精市さんのこと」と答えれば目が優しく細められる。嘘はついていない。すると、ずっと肌を撫でていた手がゆっくりと下腹部の方へ移動する。何も纏っていないその場所に指先が辿り着いて、芽夢は小さく息を呑んだ。初めて、彼の笑顔が意地悪く変わる。


「怖い?」
「、ん…」
「初めてじゃないのに?」


あくまで優しく、核心に触れる言葉。彼からそんなことを言われるなんて思わなくて、芽夢は目を見開いた。今まで忘れていた、この関係が普通ではないという事実が胸に刺さる。同時に、こみ上げてくる幸村と、彼への罪悪感。駄目だ、と必死に制止するものの、とっくに堰が崩れ去っていた涙腺はいうことを聞いてくれなかった。ぼろぼろと涙を零した芽夢を、幸村は慌てたように抱き起こして腕の中に閉じ込めた。


「っごめん、ごめん芽夢」
「っ、…ごめん、なさ…っ」
「大丈夫、芽夢は何も悪くない。大丈夫だから」


小さな子供を宥めるように、背中を上下する手のひら。違う、悪いのは、何もかも自分なのに。そんなところも、彼は受け止めてくれようとする。だから、また甘えてしまうんだ。
泣き止むまでずっと抱き締めていてくれた彼。そっと瞳を覗き込んだら、唇が落とされる。触れ合っていた時間も長かったけれど、その中でもキスをする回数はとても多い。キス、好きなのかな。そんな考えが頭を過ぎって、ほんの少しの出来心で離れたばかりの彼の唇に自分から吸い付いた。背中の手がぴくりと反応して、多少でも彼を驚かすことができたという事実に優越感。こうして恋人同士みたいに触れ合っていれば、彼だけに恋をしていられる。それがたとえほんの一時のものでも、ずっと我が儘な子供のままだから。今を自分の都合良く進めることに、精一杯になってしまうのだ。


「っ、ぁ…」


彼の腕に抱きかかえられたまま、片方の手が一度は離れたところを撫でる。忘れていた弱々しい刺激に小さく吐息を漏らせば、彼が笑ったのが分かった。ゆっくり身体の中に侵入してくる異物感。差し込まれた幸村の指に過敏に反応して痺れる自分の身体が、すごく厭らしいものに思えた。少しずつ、感覚を確かめるように身体の内側から刺激されて、指の腹で入り口を押し広げられる感覚が、おかしいくらい恥ずかしくて。これなら早くかき乱して、頭が真っ白になるくらい犯してくれた方がまだ良いくらいだ。感覚を開けずに常に与えられる快感と、彼に少しずつ確実に暴かれているという羞恥心で、無意識に涙が零れた。


「芽夢」
「っ、ん…ふ、」
「…ゆっくりなのは嫌い?」
「っや、わかんな…あっ、ん…!」
「分からなくないだろ?思ってること、全部教えて?」


もう、とっくに全部晒しているというのに、どうして彼はもっと、更に奥を探ろうとするのだろう。だけど、本当におかしいのはそんな彼の言葉に、いとも簡単に操作されてしまう自分の思考回路だ。かき回すように解された場所に入り込む指が二本に増えたのが分かった。ばらばらに動き出すそれに、押し寄せる快感の波。抑えがきかなくなった声が恥ずかしげもなく吐き出さる。自分のものでないみたいな甲高い声は、好きじゃないのに。何もかも暴かれるのが怖い。だけどもっと、もっと欲しい。


「あ、あぁっ…せ、いちっ…もっと、ふ」
「ふふっ。素直だね、珍しい」
「っや、だぁ…!も、むりぃ…っ」


指先から付け根まで侵入してきて、かき回したり、押し広げたり、関節を曲げて内壁を引っかかれる度にどんどん自分が自分でなくなっていくようだ。彼に触れられるほどに、自分も知らない芽夢が現れる。不意に幸村の親指が一番敏感な突起を掠め、電流が走るような快感に一層高い声で喘ぐ。そこに触れられるのはどうしても苦手で、反射的に足を閉じてしまう。脂肪の少ない太ももに幸村の腕が挟まれて指の動きが止まった。同時に、頭上から困ったような笑い声がして羞恥心を煽られる。


「ほら、足開いて」
「、う…」
「じゃないと、気持ち良くしてあげられない。怖がらないで。いっぱい気持ち良くなってる芽夢が見たいんだ」


幸村の言葉は魔法みたいだ。緊張も、不安も溶かしてしまうみたいな言葉に心が安らぐ。急に海に連れられてしまうちょっと破天荒なところも、見えないものに怯えていた時も、そうやって彼の言葉の魔法にかかっていたから、惹かれたのかも知れない。促されるままそっと足を開けば、良い子だとキスが落とされた。


「じゃ、ご褒美」
「ゃ、あぁっ!んっ、や…っ!」
「たくさん、気持ち良くなって、俺で」


急に、突起を押しつぶすようにして与えられた刺激に喉を反らして悲鳴を上げた。さっきは撫でるだけだったのに、今度は容赦なくぐりぐりとこねくり回して執拗に攻め立てられて、堪らず幸村の首にしがみつく。そこが弱いと分かってやっているのか、いくら叫んでも快感が弱まることはない。嫌々と首を振るのに、幸村はまるで聞いてくれない。だけど、彼に言われたことに馬鹿みたいに支配されて、足は閉じたらいけないのだと本能的に思って快感の全てを身に受けた。
もっと、もっと気持ち良くなって。俺の全部を感じて、俺だけの芽夢になって。
そんなことを、言われた気がする。絶え間なく浴びせられる快楽の最中のことではっきりと意識はできなかったし、その意味を理解する余裕もなかった。それが、彼の心の奥にある本心だとしたら、きっと自分の立場も忘れて喜んでしまうのだろう。


「あ、あぁっ!ん!やぁ、だめ、あっ、ーっ!」


ぐり、と強く小さな突起を押しつぶされて、ついに行き場のなくなった快感が限界にまで到達した。だらしなく声を垂れ流しながら、芽夢は幸村の首に縋りながら達した。長い時間をかけて、ゆっくり高められた身体は想像以上に熱を孕んでいたらしく、絶頂の後もそれが引くことはなかった。はあはあと荒々しく呼吸を繰り返しても、身体がもっとと訴えているのが分かる。たった今達したばかりで、まだこんなに熱を持っているなんて。落ち着かせるように背中を撫でる手に、また早く落ちてしまいたいと思う。それを悟ったのかは芽夢の知るところではないが、あまり時間を置かずに再びベッドに寝かせられて、その先に与えられるものを期待したら肌が粟だった。
ちょっと待ってて、と背中を向けてベッドから降りる幸村。化粧台の上に放り投げられているジーンズのポケットから何かを取り出しているのを、暗闇の中でぼんやりとしながらも確認した。多分、あれだろうな。しっかり避妊してくれることも、当たり前のはずなのに嬉しくなる。すぐに戻ってきた幸村は、寝転ぶ芽夢の身体に跨がると優しく頬を撫でた。汗で頬に張り付いた髪の毛を避けられて、くすぐったさに目を細める。


「…良い?」
「せ、いちさん」
「俺にも、芽夢をちょうだい」


ちょうだい、なんて、そんなふうに言われて、頷く以外の選択肢はない。彼から何かをねだってくるなんてないから、それがとても特別なことのように感じた。迷うことなく頷けば、当たり前のことなのに嬉しそうに目を細めるんだ。幸村の手が芽夢の膝裏を掴んで持ち上げる。人には見せないそこを彼の眼前に晒していると思うと、顔から火が出るのではというくらい恥ずかしくなった。そっと、先ほど彼の指によって解された場所に熱いものがあてがわれる。長い前戯ですっかり濡れそぼったそこが彼を期待している。ぞわりと肌が粟立つのを感じている間に、ゆっくりとそれが押し入ってくる感覚に息を呑んだ。はしたなく垂れ流されているであろう愛液を指に絡めて、馴染ませるように入り口を撫でる行為が高ぶった感情に更に火をつける。時間をかけて一番奥まで幸村が入りきると、そのままきつく抱き締められた。彼と、繋がっている。その事実にまた泣きそうになる。小さく彼が身じろげば、繋がった場所から伝わる刺激が愛しい。このまま、時間が止まればずっとこんな幸せな気持ちでいられるのだろうか。
けれど、そんな時間はほんの一瞬でしかないというのはこの行為をする上での常識だ。小さな身体を抱き締めていた腕が解かれ、芽夢の顔の両側に置かれる。ゆっくり、奥まで埋め込まれていた熱が動き出し身体が勝手に反応した。緩やかなピストン運動で与えられる快感に、吐息混じりの喘ぎ声が漏れ出す。


「っは、ん…あ、あぁっ」
「、ん……っ芽夢…」
「せい、いちさんっ、あ、すきっ…!す、きぃ…!」
「は、っ芽夢…もっと、好きになって、俺をみて、ずっと、芽夢…!」


俺だけの芽夢でいて、お願い。それは、彼の初めての我が儘だった。頭の隅っこの方でその意味を理解しながらも、返す言葉が浮かばず芽夢は両腕を伸ばして彼の頭を引き寄せて口づけた。誘うように口を開けば、まるで罠にかかったように口内に侵入してくる舌の感触に神経が痺れる。掻き乱すような荒々しいキスと律動による快感で、どうにかなってしまいそうだと思った。徐々に激しくなる快楽の波に、もう死んでしまうのではと思った。がつがつと中を抉られる度に上がる嬌声は、彼の唇に飲み込まれた。
精市さん、と何度も名前を呼んだ。シーツの上に投げ出された手を取られて、指を絡ませて強く繋がれる。身体も、心も全部繋がっているような気がして、芽夢もその手を握り返した。際限なくどこまでも高ぶる感覚に、いい加減限界を感じる。ぽたり、頬に落ちる幸村の汗に、彼も同じなのだろうかと思った。


「せ、いちさっ」
「ん…ふふっ、気持ち良い…っ」
「ふあっ、あ、わ、たしもっ、ああっ」
「ね、いきたい、一緒に」


快感に魅せられたらみたいな顔も、幸村なら綺麗だと思った。優しく頬を撫でられて、芽夢はこくこくと頷く。その必死の了承を受け入れると、幸村は一層深く腰を落として芽夢を攻め立てた。恥ずかしげもなくだだ漏れる声を抑えようという余裕さえ、とっくに失っている。悲鳴めいた声を張り上げて、芽夢は幸村を強く締め付けながら二度目の絶頂を迎えた。
ん、と小さな呻くような声を零したのは幸村の方だった。その髪の毛が芽夢の肩に落ちて、頭を抱えられるように抱き締められると、そのすぐ後に芽夢の中のそれが脈打つのを感じた。堪えるように息を呑む幸村の背に無意識に腕を回す。繋がったところから注がれる感覚がなくなると、彼は深く息を吐いてそっと顔を上げた。恍惚とした表情で額に張り付いた髪をどけて、そこに唇を落とされる。


「気持ちよかった?」
「っ、もう…精市さん」
「ふふ、そういう顔してるから」


こうやってすぐからかってくるところも、嫌ではない。自分がほんの少し恥ずかしいのを我慢するだけで、彼の笑顔が見れるのなら安いものだ。
名残を惜しむように頬を撫でたり、鼻の頭にキスをしたり、そんな可愛らしい彼の愛情表現を余すことなく受け入れる。離れたくなくて繋がったままの場所が、切なさと愛しさできゅっと締まって幸村が小さく笑った。なんだか、自分がすごく厭らしい子みたいで少し嫌だった。「抜くよ」その合図に頷くと、深く奥まで埋まっていたものがずるりと抜かれる。同時に襲ってくる虚脱感に、芽夢は深く息を吐いた。幸村は欲望を出し切って萎えたそれから薄いゴムを剥ぎ取って、気だるそうに片手でゴミ箱へ放り投げた。そのまま、どさりと倒れるように芽夢の隣に寝転んで深く呼吸する。疲れた、のだろうか。じっとその様子を見ていると、視線に気付いた幸村が芽夢を見て眉を下げて微笑んだ。自然に伸びてきた腕が小さな身体を引き寄せて、両腕を全部使って抱きしめられる。


「ありがとう、芽夢」


何のお礼だろうか。ああ、でも、そういえば今日はずっと互いに謝ってばかりだった気がする。ぼうっとする頭では上手く考えられなくて、小さく頷くだけの芽夢の頭を幸村の手が撫でる。それがあまりに心地良くて、何度も繰り返されるうちに虚脱感が連れてきた眠気に襲われる。


「…眠い?寝て良いよ」


穏やかな幸村の声も合わさって、余計眠気を促されるが、芽夢は必死に堪えて首を左右に振った。「どうして?」と不思議そうに尋ねる幸村の、まだ熱い頬に手を触れる。


「寝たら、朝になっちゃう…」


朝になったら、離れないといけない。もっと、一緒にいたい。近くで、触れ合って幸せを感じていたい。誰にも干渉されず、誰にも咎められない、私とあなた、二人だけの世界に一秒でも長く浸っていたい。そのためなら、眠気に耐えるくらいのことは苦ではない。
けれど、彼は芽夢がしたのと同じように手のひらで頬を包み込むと、芽夢の葛藤を崩すように優しく撫でる。大丈夫、そんな穏やかな声が、胸に落ちて溶けるようだった。


「君が寝ても、俺はずっと一緒にいるよ」
「…でも、」
「ずっと、朝までずーっと、抱きしめていてあげる。だから、眠っても寂しくならない」
「…ほんとに…?」
「本当に。大好きな芽夢に、嘘なんかつかないよ」


そうやって、また魔法みたいな声で操ってくるから。馬鹿正直な自分はおかしいくらいその言葉に安心しきってしまう。今だったら、寝てしまっても夢で彼に会えるような、そんな気がしてくる。

おやすみ。そんな大好きな人の声で、私は世界で一番幸せな夜を閉じた。
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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