短編 | ナノ


あのね、と私が口を開くと彼は首を傾げて微笑む。その綺麗な笑顔に見とれながら、私は犬のように彼にすり寄った。オパチョは昼食後の昼寝中。私が彼を独占できるこの一時を、仲間たちは決して邪魔しない。オパチョが起きたらお姉さんの私は譲らなければいけないし、最近は仕事も多くてなかなか彼との時間を満喫出来ない。だから、今オパチョ以外の誰かに邪魔されたら、迷わずめった刺しにしてしまうかもしれない。ハオ様、と名前を呟くと、優しい手のひらが頭に乗る。


「ハオ様、わたし、ハオ様の力がほしい」
「どうして?」
「ハオ様を…知りたいの」


他人の心を読む力。ハオ様とオパチョにあって、私にないもの。それはその事実だけで私の胸を締め付ける。どんなに求めても、どうしても私のところには来てくれない能力が疎ましい。


「私、こんなに寂しいのに。私の心はこんなにこんなに寂しがってるのに、どうして来てくれないの?」
「さあ、どうしてかな」


彼はいつもそうやってはぐらかす。私が聞いたことは何でも教えてくれる彼が、この思いを告げる時は同じ返答しかくれない。心臓に鉛がぶら下がっているみたいに重い。私は、彼には逆らえない。逆らいたくないから。また不満を胸にしまったまま、彼の首筋に頭を押し付ける。愛しくてたまらない。もう犬でもなんでもいい、彼のそばにいたい。死んでも彼から離れたくない。死んだって彼の隣は渡さない。たとえSOFに食べられたって、それで彼の一番近くにいられるのなら構わない。


「なまえ」


ぴくり、肩が跳ねる。彼の手が触れた、そこからじんわりと熱が広がる。彼の首からゆっくり頭を離せば、すぐ近くに綺麗な微笑みがあった。優しく額を合わせられて、真っ直ぐ見つめてくる瞳に意識がじんじんと麻痺していくようだ。


「僕は、おまえを死なせるつもりはないよ」
「ハオ様…」
「そのままで良いよ、なまえは。僕の心なんて見えなくても良い。僕がおまえの心が解るならそれで良いんだ」


彼の声に、言葉に、体温に身を委ねる。心が読めない私に彼の意図は分からない。けれど、彼がそう言うだけで納得しきってしまうのは、とても単純な理由からで、きっとそれは彼に全て筒抜けなのだろうと思うとどうしようもなく恥ずかしくなる。くすりと笑いを零して、彼の手のひらが熱をもった頬を包む。


「なまえはとても素直だね」
「…ごめんなさい」
「どうして謝るんだい?僕は嬉しいよ」


オパチョが寝ている間の彼は優しい。オパチョが居ても優しいけれど、その優しさのほとんどは私には向かない。私に向ける優しさが愛しい、私に向ける厳しさが嬉しい、私以外に向けるそれを全て奪ってしまいたい。嫌い以外の感情の全てが欲しい。こんな貪欲な心の底まで見透かされていることすら嬉しいと感じるほどに。オパチョになんてあげたくない、葉様なんて嫌い、ラキストだって私から彼を取ってしまう、彼に馴れ馴れしくして取り入ろうとする花組は嫌い。なんて、言えない。彼は全部わかっているけれど、それでも汚い言葉を彼に晒したくないから。


「僕はどんななまえでも大切だよ」
「…わたしも、ハオ様の全部が大事」


不気味なほど完全なその力も、他人の全てを見透かすその瞳も、誰もが恐れる彼の全てがいとしい。周りがみんな彼を恐れれば良い。そうしたら、私だけのハオ様になるのに。


「僕はなまえだけのものじゃあない。けど、なまえは僕だけのものだろ?」
「…ハオ様ばっかり、ずるい」


私も大概、酔い狂っている。それが心地良くて仕方ないのだ。
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