短編 | ナノ


※発売前につき捏造注意。





「ちょっと、アルヴィン!」


今日も今日とて怒号が響く。ほのかな暖かさに包まれる昼下がり。アルヴィンは出掛かった欠伸をかみ殺し、その声の主を振り向く。すると視線の先には、予想した通りの人物が予想した通りの顔をして仁王立ちをしていた。見るからに不機嫌な少女を前に、アルヴィンは苦笑しながら頬を掻いた。しかしその反応がまた気に入らなかったのか、彼女は眉をつり上げたままずかずかとアルヴィンに迫りよってくる。


「おいおい、どうした突然」
「どうしたじゃないわよ。うちのジュードをからかわないでって、あれほど言ったじゃない!」


またその話か。予想はしていたが、彼女がアルヴィンに怒りをぶつける理由には、だいたいその青少年が絡んでいる。何を隠そう彼女は、過保護すぎるくらいにはジュードを構っている彼の幼なじみなのだ。言ってしまえばジュード大好き人間、といったところか。処構わず抱き付いて、何かあるごとに甘やかして。ジュードの方はその過度な世話の焼き具合に気付いてはいるようだが、彼も彼でそれを本気で嫌がっていないところがまた彼女に拍車をかけていく。アルヴィンとしては、ジュードのことはそれなりに可愛がっているつもりなのだが、彼女にはどうも苛めているように見えるらしく、よくこうして怒りを買うのだ。否、実際に苛めているというのも間違いではないか。


「ったく、そうやって俺に怒ってないで、素直に言ったら良いんじゃないか?ジュードに相手してもらえなくて寂しい、ってな?」
「う、…うるさい、アルヴィンには関係ないじゃない!」


かっ、と顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げる彼女を前に、アルヴィンは余裕の表情。彼女が自分に突っかかるのも、こんなにむきになるのも、それなりの理由があるわけで。その理由は実は自分ではないということも分かっていた。分かっているからこそ、毎回この説教に付き合うのが馬鹿らしく思えてくる。


「だ…だいたい、アルヴィンはジュードをからかってばっかりで、ジュードのこと何だと思ってるのよ!」
「ん、青少年のこと?そうだな…」


顎に手を当てて、アルヴィンは考える仕草をする。仲間、弟、友達。どれもこれも、何か不自然な気がしてならない。しかし、アルヴィンの返答を健気に待つ少女のためにも何か言ってやらないといけないわけで。それから稍あって、アルヴィンはぱちんと指を鳴らした。その顔は、明らかに「ひらめいた」とでも言いたげだった。そして、そんなアルヴィンの反応に小首を傾げる彼女を、大きな影が覆った。「へ?」情けない声に、聞こえないふり。ぐっと詰めた距離に、細い肩が跳ねた。ほとんど密着しているくらいに近寄れば、彼女は目をまあるく見開いて硬直する。そんな彼女を前に、アルヴィンは厭らしく口角を上げた。


「ジュードは、俺のいたいけな恋路を邪魔するクソ生意気なガキ…ってところだな」
「は…?」
「分かんないかねえ。やっぱり嬢ちゃんもまだまだクソガキの仲間ってことだな」


だけど、そういう部分も含めて…、と。そこまで言いかけて、アルヴィンは口を噤んだ。意味が分からないと言いたげな彼女に、また一歩迫り寄る。幼げな表情に影がさして、睫毛が儚げに震えた。自分より一回りも若い彼女は、アルヴィンにとってはまだまだ子供で、そうあるのが普通のはずだった。


「な、に…言って、」
「本当に分かんねえの?」


それが、この様は何だ。ただの子供のはずが、だんだんとそうでなくなって。いつの間にか自分の中で彼女の存在が大きくなっていたことに、アルヴィンが気付かないはずがなかった。ジュードにだけ見せる表情を追っていたのも、怪我をした彼女を誰より丁寧に手当てしていたジュードに苛立ちを感じていたのも、それが行き着く先は一つだけで。


「もう、からかうのも大概にして!私、先にみんなのところに戻っ…」
「おっと、」
「…っ!?」


カチリ、冷たい音が落ちる。踵を返して離れようとした背中に、硬いものが突き付けられる。それが何かを悟ったのか、彼女は背筋を張ったまま凝固した。戦い慣れしてきた彼女の賢明な判断に、アルヴィンは口元を歪ませて笑った。分けられた髪の隙間から覗く白い首筋に、汗がしっとりと貼りついているのが分かる。本当に撃つつもりなんて毛頭ない。突き付けた銃口は何の意味も果たさない、けれど。


「逃がさねえよ」


引き金に指をかけたのは、彼女の方なのだ。
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