36 「あっ……あ」 「お前、隙だらけだな」 「そこ、だ………め」 「じゃあこれでどうだ」 「やめ、て、ください、あ、あ、あ、あああああ」 タラッタタタタタン、とさっきから何度目かわからないほど流れた音楽がまたもや流れ、私は何度目かわからないゲームオーバーとなった。そう、私は現在スーパーラリオブラザーズをプレイ中だ。私の隣ではキャスさんがwiiリモコンを持ち、私に指導という名のいじめを行っている。私ことラリオは蹴られたり踏まれたり持ち上げられたり投げられたり、とにかく散々な目にあってきた。これを指導というものか。 「なまえは下手だなあ」 「だって、まだ始めて三日ですよ」 「それにしてもどんくさい…」 「ひどいですねキャスさん……。次は負けません。もう一回やりましょう」 「えーこれ何回目?飽きたって」 「それなら嬉々として私を負かすのやめてもらえませんか!さっきからキャスさんのせいでノコノコにぶつかってるんですよ!」 「じゃあ今回はおとなしくしてるよ。一人でやってみな」 「キャスさんは?」 「後ろからゆっくりついていく」 「ストーカーですね」 「なんで!?なんでそうなるの!?」 始まった。そんなに苦しいコースではない、はずだ。私、ラリオは順調に駆けていく。おっと、ここでクリボー。こいつを何度飛び越えたことやら。そして何度ぶつかったことやら。それは主にキャスさんのせいだが、今キャスさんという邪魔なムイージはいない。私は楽々クリボーを飛び越える。ほら、邪魔者がいないとこんなに、あ、 調子にのったのが悪かった。ラリオは土管にどんどんと潜り始めている。やだ、そこに入るつもりは……。後悔してももう遅い。 私、ラリオは呆然と立ち尽くしていた。目の前に広がるのは、ノコノコが歩き回る穴だらけのコース。最悪だ。さっきここに来たときは、走り出して三歩で穴に落ちた。ノコノコを飛び越えた先に穴があったのだ。 ラリオは慎重に足を進める。穴を飛び越え、飛び越え、さあ来たノコノコだ。これを飛び越え、………よし、穴の手前で止まれた!次の穴も飛び越え……!やだやだやだ!ノコノコがいる!やばい、私今ノーマルラリオだし、ぶつかったらまたゲームオーバー……! そのとき、足元に緑色の何かが入り込んできた。その何かを踏んで、ラリオは高く飛び上がる。あ、取り合えずボタン連打しといて良かった。緑色の何か、キャスさんことムイージはそのまま華麗にヒップドロップを決めた。吹っ飛ぶノコノコ。 重力のままに落下してくるラリオを、ムイージは優しく抱き止めた。上下に積み重なっただけの言っちゃ悪いが味気ない姿だが、抱き止めたことに変わりはない。私は感動した。 「ムイージ……っ!」 「なんでここ来るんだよ。お前には難しいだろ」 「う、……はい」 「俺が運んでやるから、じっとしとけ」 「キャスさん……っ!」 私は感動した。さらにもう一度繰り返すが感動した。いつものキャスさんとは比べ物にならない頼もしさだ。 「本当はかっこいいんですね……!ムイージ」 「ムイージかよ!」 「もちろんキャスさんもかっこいいですけど。それは前から知ってましたし」 「……まじで?わかってた?」 「はい」 「どうしたの、今日なまえがいつもより優し、」 「何二人でいちゃいちゃしてんだよー!」 あ、 私とキャスさんの声が重なる。ソファに座るキャスさんに後ろから抱きついてきたのは、完全に酔ったバンダナさんだった。その勢いでキャスさんの手からリモコンが吹っ飛ぶ。ガツン、と痛い音をたてて床に落ちた。落ちたのは、リモコンだけじゃない。私たちもだ。ラリオとムイージは、ともに穴へと真っ逆さまに落下していった。私とキャスさんの叫びは届かない。 「何すんだよ、バン!」 「おいおい、いいのかシャチー?」 声を落として、バンダナさんがキャスさんに何かを囁く。途端にキャスさんは怯えた顔をし、後ろをおどおどと窺った。つられて、私も目を向ける。空のグラスで溢れていた。 「あ、またビールなくなっちゃいましたね。私新しいの出します」 そう言って立ち上がると、クルーたちから歓声が上がった。私は冷蔵庫へ急ぐ。 今日は久々に、ハートクルーのみんながこの家に集まっているのだ。何人いるかなんて数え切れないが、おそらくメンバー全員が来ている。缶や、瓶、グラスを思い思いに手にし、飲んで飲んで飲んで飲みまくっている。キャスさんとのゲームの合間合間に酒を補充してはいるのだが、すぐになくなってしまうのだ。 「こっちにもー!」 「あ、今行きます!」 ビール瓶を手に、私はクルーのもとを回る。一人一人のグラスにビールを注いでゆけば、何人かに一緒に飲もうぜと誘われた。私未成年ですが。 そんなみんなのノリが好きだ。 11.10.17 |