17

非常に気まずい昼食を終え、私たちはまた街を歩く。トラファルガー・ローは相変わらず不機嫌で、むっつりとした無表情を通していた。

店を回ること三軒目。下着のときとは違い、トラファルガー・ローは私に好きに選ばせてくれた。一軒目の服はどうにも気に入らず、二軒目は結構高額だった。値段は気にするなと言われたが、これから世話になる身としてはそこまで迷惑をかけたくない。というわけで三軒目のこの店に着ている。


「趣味悪いな」
「ほっといてください」
「なんでスカート選ばねえんだ」
「…嫌だから」


曖昧に言葉を濁す。これまでふわふわしたスカートばかりを履かされてきた私は、ボーイッシュなスタイルに憧れていた。せっかく家を離れたのだから、そういう服が着てみたい。かといってすぐに決まる訳ではない。なにしろ着たことがないのだ。


「オーバーオールばかりだな」
「つなぎが着たいんです。ベポもシャチさんもペンギンさんも、つなぎだから」
「…あいつら、いつもつなぎってわけじゃねえぞ?」


呆れたようにため息をつくトラファルガー・ロー。そのまま私から離れていく。静かになってよかった。私はいくつかのオーバーオールを選び出す。短かったり、長かったり。色もデザインも様々だけど、全てつなぎだ。続いてTシャツを選んで試着。はじめてこういう服を着たが、結構自分に似合っていると思った。少なくとも、これまで着てきたひらひらふわふわよりずいぶんマシだ。

試着室から出ると、目の前にトラファルガー・ローが立っていた。なんとなく危ない気がして後ずさる。トラファルガー・ローはそんな私を見て舌を打ち、持っていた服を押しつけた。代わりに私の持つ服を奪う。白をベースとしたその服を広げてみると、それはワンピースだった。所々に黒や赤の刺繍が入る、落ち着いたデザインのワンピース。…で、これはなんだ。


「着てみろ」
「…は?」
「早くしろ」
「いや、私スカート系は好きじゃないんで」
「お前が嫌いなのはふわふわしたやつだろ。早くしろ」


そう言って私を試着室に押し込む。パタンと扉が閉められた。目の前の鏡に映る、ワンピースを手に立ちすくむ私。これを着なければここから出してもらえないだろう。そう判断した私は、ため息をつきつつ服を脱ぎ始める。

嫌いなのはふわふわしたもの。そんなこと言ったっけ?…いや、言ってない。ベポにも話した覚えがない。それなら、どうして知っているんだろう。ワンピースを手に取り、もそもそと腕を入れる。見た目によらず生地が柔らかい。

ワンピースを着た自分。似合ってない。正直、このワンピースは好みだ。確かにふわふわもひらひらもしておらず、凛とした雰囲気を醸し出している。色合いも形も好きだ。だが、残念ながら似合ってない。このワンピースに比べて、自分がどうしようもなく劣っている。


「着たか?」
「…着ました。でも似合わないので脱ぎます」
「おい待て、」


ガチャリ。突然戸が開かれた。私は信じられない思いで目を見開く。私が脱ぎ始めてたら、どうする気だったんだ。
なんて、のんきに考えている場合じゃなかった。気づけばトラファルガー・ローの品定めするような視線が向けられている。ああ、嫌だ。絶対馬鹿にされる。私はぐっと拳を握りしめた。


「思ったより悪くねえな。決まりだ、それも買う」


呆然とする私の前で、開かれたときと同じくらいあっさりとドアが閉じた。ドアにも鏡がついているので、私は鏡の中の自分と向き合うことになる。

悪くない?どこが?悪いとしか言えない今の状況を見て悪くないと言うなんて、トラファルガー・ローは案外見る目がないのかもしれない。思ったより悪くないって、どれだけ悪いのを予想してたんだろう。腹立たしい。

……悪く、ない。

私は複雑な気持ちで服を買い終えた。


11.08.22