今日も私は泣くのか。いい加減にしろ。毎日毎日同じことを繰り返す自分に心底愛想を尽かしつつ、私はまた涙を流す。


「疲れた」
「おまえ最近そればっかりだな」
「疲れた」


ルフィはベッドに身体を投げ出した私の傍にどすんと腰をおろした。わずかに沈み込む感覚。ルフィの声に呆れを感じ取った私はぎゅっとシーツを握りしめた。


「なんで私は私なの」
「知らねェよ」
「なんでやることやること間違ってるの」
「知らねェ」
「なんで何やってもうまくいかないの…」


取り柄なんて一つもない人間だった。人に勝っているのも何もない。何をやっても人の倍の時間がかかり、何をはじめるにしても人の倍の時間がかかる。進む方向はいつも正解と真逆。


「私はどうしていつも代わりなの」
「何の」
「人の」
「…はァ?」
「いつもいつも私は誰かの代わりだよ」


私と誰かを二人並べて、どちらか一人を選べと問うとする。そういうとき、必ず余ってしまうのが私だ。選んでもらえないのが私だ。"本当は選びたかった"誰かがいないときだけ代わりとして選ばれる、そういう存在が私だ。もう慣れた。慣れたと思っていた。


「どうして私は一番になれないの」


ルフィは何も言わなかった。顔をあげなくても、私を見下ろしているのがわかった。長い長い沈黙のなかで、私がぐすぐすと泣く音だけが浮いている。それがひどく滑稽に感じて、ますます孤独を感じて、涙はいっそう激しく流れた。泣けば泣くほど惨めだというのに、どうしてこの液体は止まらないのだろう。


「なまえ、腹へった」
「は、」
「めし」
「……やだ。ご飯作ったからってルフィが私を選んでくれるわけじゃないでしょ」
「何の話だよ?」
「もう、疲れたの」
「何に」
「愛しても愛しても愛されないことに」
「おれはなまえあいしてるぞ」
「嘘つけ」


そういって私に笑顔を向けた人に、何度裏切られたことか。どんなに私が愛しても、どんなにその人のために尽くしても、結局私は二番手に変わりなかった。いや、その人たちは悪くない。その人たちは、本当に私を愛しているのだろう。ただ、"一番大切な誰か"の代わりに愛しているというだけで。誰よりも私を愛しているのではないというわけで。

十分だと思っていた。誰かに愛されるだけで十分だと。いつから、それだけでは物足りなくなったのだろう。いつから、こんなに欲張りになったのだろう。愛されない原因を、人より勝るものを持たない自分に押しつけ、自分を嫌いになったのはいつからだろう。私を愛してくれる唯一の自分を愛せなくなったのはいつからだろう。


「ルフィも私を選ばないよ」
「よくわかんねェけど、選ぶ」
「何かあったら気にも止めずに私を見捨てるよ」
「見捨てねェ」
「私を愛してるなんて嘘だよ、そんなのすぐに嘘になるよ。だって、私愛されるようなもの何も持ってないもん」


私を愛してくれる人を信じられない一番の理由。それは、自分が愛される理由を見つけられないから。こんなに汚い、欲の深い、自分勝手な、取り柄なんて、良いところなんて一つも持たない私を愛する人間なんているわけがない。ルフィだってそうだろう。私を愛しているわけがない。


「でもおれなまえ好きだ」
「同情だよそんなのは。同情なんていらない」
「なまえ」


シーツに顔を埋める私の横に寄り添うように、ルフィが身体を倒したのがわかった。わずかに触れ合った腕から熱を感じる。痛いくらいにぎゅっと握られた手も、いつものことだ。


「おれはずっとここにいるぞ」


間近で響く少し低い声に、噛みしめた唇が歪むのを感じた。嘘だ。嘘に決まってる。私なんかと一緒にいて良いことなんて何一つない。ルフィもしばらくすればそれに気づいて、すぐに私を手放す。見捨てるに、決まってる。


「手、」
「ん?」
「……離さないで」
「離さねェよ」


それがわかっていても、今日もまたこの手にしがみつき、自分の居場所を求めるのだ。


海底に横たわる輝き


12.05.05 title by √A