▲38▽


「及川行こうって!な!?いいだろ今日くらい!」
「いやほんと無理、ごめん〜」
「お前もうこれから誘ってやらねーぞ」
「それはやだよ誘ってよ!」


はい、今のでこのやりとりは五回目。もういい加減にやめないと時間もったいないよ?そう言うと、だったら早く来いって急かされた。だから無理なんだって、何回言えばわかるの。

ちなみにここは駅前で、俺はカラオケの誘いを受けてる真っ最中。この駅はここら辺で一番大きな駅だから、周りにカラオケボックスや飲食店がたくさんある。俺のクラスは焼肉屋で体育祭の打ち上げをして、そのテンションのままカラオケでの二次会に突入しようとした。ところがみんなの及川さんが「ごめん、今日はここで帰るね」なんて言ったもんだから、こんな大騒ぎになったわけだ。

やつらの主張としては俺はいつも忙しくて、こんな日じゃないとカラオケになんか行けないだろうから行こうぜ!ってことらしい。でもゴメンネ、俺は今日も忙しいんだよ。

うんざり顔の女子が男子を急かす。


「ねえもう及川ほっといて行こうよー」
「……待って、ねえ。なんか俺に冷たくない?」
「はあ?あんた行きたいの行きたくないのどっちなの」
「行きたいけど行けないんだってば…!」


明日は練習試合があるから。その言葉を飲み込んで、バイバイと寂しく手を振った。練習試合があるからカラオケに行けないのは本当だけど、それを言い訳にしたくない。どうせ試合がなくたって、早起きして朝練に行ってたはずだ。

この二日でずいぶん体がなまってしまった。いつもの夜のランニングに加えて朝もそれなりの距離を走ってはみたけど、二日間ボールを思いっきり打ってないのはイタイ。この遅れを取り戻すのに何日かかる?この二日のうちにあいつらはどれだけ成長した?……休んでる暇なんてない。なるべく早く帰って、明日に備えなければ。髪をいじらなかったのだって、帰ったらすぐに寝られるようにだ。俺が二次会に行けないのは、……行かないのは、ずーっと前から決まりきってた。

なんだかんだで手を振り返してくれる女子たち、行こうぜ及川ー!となおも食い下がる男子たち。ああもう、このクラス好きだなあ。優しいやつばっかりだ。行きたいんだよ、行きたい気持ちはあるんだよ。だけどそれを選択することはありえないわけで、それは俺が一番わかってるわけで。


「ごめんって。今度は行くからさ」
「今度っていつだよ!」
「んー、卒業後?」
「はああ!?それまでお前の下手な歌おあずけ!?俺今日聴きたいんだって!」
「えっちょっ今なんて?下手じゃないけど!?」
「いやお前音痴だから。みんなそれを期待してんの。なあ」


そうそう、と口々に言われて反論しようとしたとき、男子たちの後ろに見知った女の子が見えた。なまえちゃんだ。駅前ロータリーの向こうの、横断歩道のさらに向こう。隣に青城の制服の男がいる。赤信号で止まっている間、なまえちゃんがそいつを見上げて、そいつがなまえちゃんを見下ろしているのがここからでもわかった。


「及川?」
「あ、ごめん。帰らなきゃいけない理由ができちゃった」
「は?何?」
「彼女を家に送り届けマース」
「はあ!?」


どこだよ!いねえじゃん!と男子がきょろきょろし、女子がもう行くからと吐き捨ててカラオケに向かい始める間に信号は青に変わった。二人がこっちに歩いてくる。なまえちゃんの表情は暗くて見えないけど、まあどうせ満面の笑みだろう。ほんの十秒後にそれが当たってることを確認し、話すのに夢中で俺に気づいてないその子に「なまえちゃーん」と声をかけた。

なまえちゃんがぴくりと反応する。俺を見つけた途端に表情が融けるように緩んだのを見て、こっそり唇の端を上げた。


「じゃ、そういうことで」
「及川ほんとムカつくわ!」
「またそんなこと言って〜。ほんとは俺が大好きなんでしょ?」
「ないわあ…」
「リア充死んどけ」
「ふられちまえ」
「音痴のくせに」
「ねえちょっと酷すぎる!あと音痴じゃない!」


俺が騒いでる間になまえちゃんは男と別れたらしく、一人で俺に近づいてきた。俺のクラスメイトの前だからか、人のいい笑みを浮かべている。その顔を見るのが嫌で、「じゃ、月曜にね」と早口で言って急いでクラスメイトに背を向けた。が。


「及川!月曜模試だからな!」
「うわ、そうだった!ありがとう!」


すぐに振り返ってしまった。うう、カッコつかない。なまえちゃんも俺に合わせて振り返り、クラスメイトたちにぺこっと頭を下げた。あーほんと、わかりやすくいい子ぶるよねえ。かすかな苛立ちを隠してなまえちゃんの隣に並ぶ。

駅はそれなりに混んでいた。人混みをすり抜けて改札を通り、ようやくなまえちゃんに向き合える。なまえちゃんは今にも死んでしまいそうな疲れた顔を、遠慮なしに俺の目に晒していた。可愛さとはほど遠いそれを見て思わず吹き出す。


「どしたの、死にそうだけど」
「疲れて…本当に、疲れて」
「百メートル走頑張ったもんね」
「その話はやめてください、忘れたいんですから」


なまえちゃんは心底嫌そうな顔をして首を振った。逃げるようにホームに足を向けたので、俺もそれに続く。


「体調は大丈夫?」
「おかげさまで。……あんなに遅く走ったのに気分が悪くなるなんて、本当に情けないです」
「それだけ必死に走ったってことじゃん」


なまえちゃんは苦い顔でうつむく。声がくぐもり、表情がよく見えなくなった。


「高校の体育祭、辛いです。一日中叫んで、走って、踊って」
「中学もそんなに変わんないでしょ?」
「んん…もう覚えてませんけど」
「優勝おめでとう。まさか六連に持ってかれるとはね」
「ありがとうございます。私のビリが影響しなくてほんとに良かったです」


噛みしめるような口調でなまえちゃんは言う。それが無性におかしい。ミスは極力しない方がいいけど、したとしても周りがカバーすればいいだけの話だ。そんな風に気楽に構えてるのは、俺がそういうバレーをやってるからなのかな。ていうかなまえちゃん、嫌がったくせに自分から百メートル走の話題出してるし。それを指摘しようかと思ったけど、つまらない揚げ足取りにすぎないからやめた。代わりに、さりげなく別の話題を切り出す。


「声かけちゃって良かった?」
「え?」
「クラスの子と帰りたかったんじゃないの」
「……ああ。いえ、別に。電車で帰るからって、一緒に歩いてきただけです。あ、打ち上げの帰りですよ、もちろん」


言い訳するように付け加えられた言葉。ちら、と俺を見上げた視線は不安そうだった。俺は何も気にしてない風を装って、「ふーん。楽しかった?」と聞いた。なまえちゃんの表情が困ったように萎む。


「楽しかったですよ」


嘘つき。そう言いそうになる舌を止めて、意味深に微笑んでおいた。一年生の体育祭打ち上げは親睦会の目的も兼ねるから、大抵くじ引きで席を決めて男女交互に座る。なまえちゃんはよく知らないやつが隣に来て、にこにこ笑うことと話を合わせることに疲れたってとこだろう。さっき、俺を見た瞬間に、張り詰めた笑顔を崩したことが、それを物語ってるって気づいてないのかな。

きっとなまえちゃんは、どんなつまらない話にでも頷いて笑ったはずだ。俺たちが付き合ってはじめての帰り道でそうだったように。つっこみスキルと会話能力がないから、とりあえず全部にあはは〜って言うしかない。そんな単調な対応でも、あの笑顔があれば相手を満足させられただろうね。

あの笑顔と言えば、あれも同じだ。百メートル走の招集場所で、なまえちゃんが六連の連合長に見せてたカオ。眩しい、なんて、ありきたりな言葉が当てはまりそうな笑顔だった。こっちの気持ちまで明るくしてくれそうなあれを向けられたら、男はきっと勘違いする。勘違いとまではいかなくても嬉しくなるだろう。あの連合長も、なまえちゃんの隣の席だったやつも、なまえちゃんと駅まで歩いてきたやつも。

なまえちゃんがあの笑みを俺に向けてくれることはない。普通ならそれを残念に思うべきだ。誰もに向けられるあの笑顔を、俺だけが見られないんだから。でも。でもね。

唇がゆっくりと弧を描く。昼間の光景が、頭によみがえってきた。

招集場所で俺に泣き言を漏らしたあの子が別の男には満面の笑みを向けているのを見た瞬間、悔しく思うどころか心臓が跳ねた。頭に血が上る感覚さえあって、にやにやし始めた唇を抑えて前を向くのに必死だった。残念でした。その子は今、笑えるような状況じゃないんだよ。本当は泣きたくてしょうがないんだよ。そう言ってやりたいけど言えるわけがない。なまえちゃんが笑ってるから。俺を見るなり泣きそうな顔で駆け寄ってきたあの子が、他の男には一生懸命、作り笑いをしているから。


「……先輩?」
「ん?何?」
「……いえ、なんだか変な顔してたので」
「はあ?何言ってんの。いつも通りかっこいいでしょ?」
「そういう変な顔じゃなくて…」


ああもう、律儀っていうか、頭が固いっていうか。そういう変な顔じゃないのはわかってるよ、冗談に本気で答えを返されても困るよ。たぶんみんなは知らないだろう、なまえちゃんとの会話はテンポが悪いことも、なまえちゃんにはあんまり冗談が通じないことも、なまえちゃんはイライラや疲れがすぐ顔に出ることも。なまえちゃんはお前らが期待してるより、ずっとずっと陰気で短気で、可愛くない子なんだよ?


「その疲れた顔、打ち上げでも見せてたの?」
「いえ」
「だよね。そんな顔してたら嫌われちゃうもんね」


なまえちゃんがうつむいた。落ち込んでる、落ち込んでる。本当にわかりやすくて、いじりがいがあるよねえ。俺はにっこり笑って体を傾け、その顔を覗き込んだ。


「俺以外にそういう顔見せちゃダメだよ」
「……先輩はいいんですか」
「俺は平気。だってもう知ってるもん」
「先輩はどっちがいいと思いますか。笑ってるのと、笑ってないのと」
「……えー」


その二択は、ちょっとおかしいんじゃないかな。要するに素顔を見せるか見せないかでしょ?そう言ってやると、なまえちゃんは目をぱちぱちと瞬いた。いつもよりボリュームのある睫毛が上下する。


「あっそういえばなまえちゃん、今日可愛いね」
「……はあ」
「あれ?嬉しくない?」
「だってどうせ嘘でしょう」
「なんでそう思うのさ!本気で可愛いなあって思ってたよ?いつものおかっぱもいいけど、ふわふわしてるのも似合うね」
「どうも……」


じわじわと赤く色づいていく頬。あーあ、ほんと単純。つまんないよ、なまえちゃん。そう心の中で毒づきながらも、なぜか手のひらが汗をかいた。鼓動が少し、早くなる。

この子はきっと気づいてない、俺が話を誤魔化したことに。笑ってるのと笑ってないのどっちが好きかって?答えられるわけないじゃんそんなの。俺はお前が俺にだけ見せる心からの笑顔が好きで、他のやつらに見せるキラッキラの作り笑いが嫌いなんだから。

笑ったり、笑わなかったり。笑えなかったり。それでいいよ、頑張らなくていいよ。俺はそんなありのままのなまえちゃんが、


「先輩こそ、良かったんですか?」
「エッ!?」


顔の火照りをなんとかしたいのか、さりげなく(全然さりげなくないけど)ぱたぱた手で顔を扇ぎながらなまえちゃんは俺を見上げていた。声が裏返った俺を見るその目が、怪訝なものに変わる。こほんと空咳をしてあらためて「えー何?何のこと?」なんて聞き返しながら、俺は冷や汗を流していた。危なかった、何が危なかったかよくわからないけど絶対今のは危なかった。危ないことを考えそうになってたーーーーたぶん。


「さっきいた人たち、クラスの人じゃないんですか?」
「ああそうそう。二次会行こう!って」
「行かなくちゃいけなかったんじゃ…」
「ううん、いいのいいの。まあほんとは行きたかったけどさ、明日朝から練習試合あるから、早く帰って寝な……」


舌が動かなくなって、言葉の最後が消えてしまった。やばい。や、やっちゃった。ずっと、ずーっとこの子の前では、部活の話をしないようにしてたのに。「応援行きます」なんて言われたらどうしよう。返事は拒絶に決まってるけど、笑って断れる自信がない。かろうじて貼り付けた笑顔の裏でだらだら汗を流し続ける俺の隣で、なまえちゃんはスッと俺から目を逸らした。


「そうなんですか」


拍子抜けするほど、簡単な一言だった。大変ですねとか、カラオケくらい行っても良かったんじゃないですかとか、頑張ってますねとか頑張ってくださいとか、それこそ応援行きますとか。俺に思いつくのはそれくらいだけど、それに近い何かしらを絶対言うと思ってたのに。そうなんですかって、何、その興味なさそうな返事。……当たり障りない、返事。

ときどきふと思うんだ。この子は気づいてるんじゃないかって。俺があの日キレた理由も、俺がこの子を嫌う理由も。もしかしたら飛雄への感情や俺が告白した理由さえ、見抜いて、それでいて黙ってるんじゃないかって思ってしまうときがある。

もしそうだとしたら。

すべてに気づいて飲み込んで、黙って俺と付き合ってるのはなんで?そうまでして俺を利用したい?俺を利用して飛雄の気を引きたい?

無言でいるうちに電車が来てしまった。始発で全席空いてたから、このホームにいた全員が座ってもまだスペースがあった。


「体育祭はカップル増えるって言うけど、なまえちゃんのクラスは何かあった?」
「ありました。幹部同士でくっつきました」
「いいなあ、盛り上がったでしょ。三年にもなると何もないよ」
「そうなんですか?」
「ないない。もうだいたいお互いを知ってるし、こいつらと恋なんて馬鹿らしいみたいな空気があるからね。そのくせ口では彼氏欲しい彼女欲しいって言ってるから、よくわかんないな」


なまえちゃんはこくこくと頷いた。電車がガタンと揺れ、華奢な肩が俺の腕にぶつかった。


「あっでも、学年越えてのロマンスは結構あるみたいだよ?ほら、俺みたいなセンパイはやっぱ下級生にモテるじゃん。今日も散々写真撮ってくださいって言われてさあ。困っちゃうよねえ、カッコイイ衣装着た幹部たちより人気なんだもん。連合長の恨みがましい視線と言ったら、……なまえちゃん?」


なまえちゃんは目を閉じてうつむいていた。昼間は耳元にあった髪の毛が、今は横顔を覆い隠している。ってそんなことはどうでもいいんだよ!し、信じられない!俺の話の途中に寝るなんて!揺り起こしてやろうかと思ったけど、さっきまでの疲れた表情が頭をちらついて踏みとどまった。そーっと指を近づけて、髪の毛を耳にかけてやる。

安心しきった寝顔だった。いや別に、本人にそんなつもりはないんだろうけどさ。見てる限りでは安らかで、何の心配事もなさそうに目を閉じている。あんなに心身ぼろぼろに疲れてても、こんな顔して眠れるんだなあ。これだから単細胞は羨ましい。

眠ってるなまえちゃんをそのままにして、前を向き腕を組んだ。一人で喋るわけにもいかないし、暇だなあとため息をつく。思えばいつも、帰り道は誰かが隣にいてくれた。そのときの彼女だったり、岩ちゃんだったり、……うーんまあそのどっちかだけど。

たまにちらちら隣を見てみる。どんなに電車に揺られても、なまえちゃんはまったく起きそうになかった。泣くほど走るのが嫌いな子が体育祭に参加するとこうなるのか。俺からしてみれば、普段の一日練の方がよっぽど疲れるけどな。あ、でも帰り際に会った岩ちゃんは結構疲れてた。……俺、頑張ってなかったのかな。声も出したし全力で走ったし、ダンスだって完璧に踊ったつもりなんだけど。そんなことを考えてるうちに、暇すぎて瞼が下がってきた。


なまえちゃんが唇を動かす。「先輩」と、聞き慣れた四文字で空気を震わせた。応じるように俺の唇が動く。何、なまえちゃん。そう返事をしようとしたところで、隣に誰かが立っていることに気づいた。

「先輩」

なまえちゃんが返事を急かす。俺の隣の男、六連の連合長の唇が動いた。ちょっと待てよ、なんでお前が返事をするわけ?なまえちゃんは俺を呼んでるのに。

「先輩、頑張ってください」

……なまえちゃんは誰を見ている?そうだ、こいつもなまえちゃんに"先輩"って呼ばれてた。俺は目を凝らしてなまえちゃんの表情を窺う。笑ってたらこいつ、笑ってなかったら俺だ。どくんどくんと心臓が煩い。綺麗に弧を描く唇の、上にあった表情はーーーー


かっくんと首が折れ、その衝撃で目が覚めた。いつの間に寝てた?どれくらい寝てた?もしかして乗り過ごした?慌てて窓の外を見ようと右を向く。次の瞬間、俺はピシリと凍りついた。

なまえちゃんの隣に、さっきまでいなかった男が座っている。外見からいってたぶん大学生のそいつの肩に、なまえちゃんはだらりと体を預けていた。そのせいかそいつは照れるように笑ってて、それをそいつの前に立つ友達らしき男が冷やかしてて。友達を見上げていたそいつの視線がなまえちゃんへと動いた瞬間、考えるより先に腕が動いていた。


「すいません」


なまえちゃんの肩に腕を回し、強引に体を引き寄せる。思ってたより重くて、そのことがまた俺を凍りつかせた。何やってんのこの子?力抜きすぎでしょ。昼に俺にすがってきたときはもっと軽かったじゃん。ていうかお前、誰にでもこうやってくっつけるわけ?

今度は俺に体を預けて眠るなまえちゃんに、おそるおそる目を向ける。白く柔らかそうな横顔の下、開いたブラウスの胸元からその中が見えた。……くっそ!

隣の男を睨みつける。まったく動じず、それどころか「青春っすねー」とにやにやされてもはやブチリと切れそうだ。『まもなく北川。北川』のアナウンスを聞くなり回したままの腕でなまえちゃんの肩を強く揺さぶり、それでも起きない大馬鹿者の頬に手を伸ばしてぐにーっと引っ張った。

ようやく目を開けたなまえちゃんの膝からリュックを奪い取り、左肩にそれと自分の鞄を担いで右手でこの子の腕を掴んだ。ほとんど引きずるようにして電車から降ろす。寝ぼけ眼を泳がせるなまえちゃんは何が起きたかわからないようで、一番に発した言葉は「あの、リュック…」だった。


「リュックじゃないよ!バカじゃないの!?」
「リュックじゃなくてバカ……え?」
「違う!リュックだけどお前がバカ!」


すっとぼけた表情にデコピンをお見舞いすると、なまえちゃんは何するんですかと怒り出した。怒ってるのはこっちだよ、何すんだって言いたいのも俺の方だよ。だけど"何"をされたのかなんで怒ってるのか自分でもよくわからなくて、結局リュックを返してやらないままなまえちゃんの家までケンカを続けた。本当にこの子は、可愛くない!


14.12.02