02 煌帝国の軍隊は、十五歳以上の兵士で構成されている。自ら志願した武人もいれば、国民の義務として徴兵された者もいる。私はこの十一年間、煌の武人として生きてきた。正確に言えば、煌の武人となるために生きてきたのだ。だから、十五歳になったとき、真っ先に紅覇様の出陣する戦に志願した。一つ年上で、すでに金属器使いの身であった紅覇様は、私よりも一年早く戦に出て、最前線で戦っていた。十五の私は、ようやく紅覇様とともに戦えると喜んだ。しかし、私は軍隊に入れなかった。それから一年間、数々の戦に志願し続けたが、私が軍隊に加わることはなかった。 理由は単純、私が他の兵より弱かったからだ。稽古を怠ったつもりはないし、日々成長していたはずだ。しかし、追いつけなかった。周りの男たちの、成長速度に。筋力に。敏捷性に。 五歳の頃、男たちを差し置いて選抜試験の頂点に立ち、紅覇様の従者に選ばれ、その後も優秀な働きを見せ、将来有望な武人として評価されていた朱灯杏は、あっという間に地に落ちた。そして、とうとう今では"飾り物従者"と蔑まれるまでになった。 飾り物従者。飾られている従者。誰に? 当然、紅覇様にだ。 宮中に入った頃の私は、男のような身なりをしていた。淡白で質素な服を着て、傷と痣を全身に作り、筋肉は男にも劣らなかった。紅覇様や、そこらの男たちより随分背も高かった。 しかし、身長はどんどん周りに抜かれていき、十四のとき、ついに紅覇様にまで抜かれてしまった。そこで初めて危機感を覚えた。手合わせで負けたことのなかった相手に、簡単に組み伏せられるようになった。力一杯蹴ろうと殴ろうと、痛くも痒くもないという顔をされることさえあった。 これはすべて、同世代の者たち比べての話だ。大人からすれば、いつの私も、ただの弱い子供だっただろう。しかし、子供は成長する。大人たちは、私の成長にも期待していた。期待していた分、失望は大きかったようだ。 体格をあっという間に周りに越され、そこで初めて私は"女"として見られるようになった。「おまえ、女だったんだな」というからかいを、何人もの男にされた。悔しかった。 このときにはもう、私の髪は腰まで伸びていた。紅覇様が伸ばせと言ったからだ。服の下に隠してはいるものの首には鎖に通した指輪を下げ、淡い桃色や水色の服を着ていた。すべて紅覇様が与えてくださったものだ。 私は今や、見なりから戦闘力まで、ただの"女"でしかなかった。大臣や将軍たちは、紅覇様に、私を側近から下ろすよう進言した。しかし紅覇様はそれを聞かなかった。いつまでも私をそばに置き、式典のときなどは見せびらかすように後ろを歩かせた。 実力もないのに、十一年の間に生まれた情けをかけられて、そこに置かれた飾り物。何もできない、ただ置かれているだけの存在。飾られた、存在。そんな意味合いを込めて、誰からともなく私をそう呼ぶようになった。 「灯杏」 「はい」 「今夜の警護はおまえ?」 「はい」 「……ふ〜ん、そう」 紅覇様は、私の目の前で扉を閉めた。ばたんという音が物悲しさを漂わせる。夜伽の女を用意しましょうか、と言うつもりだった私の口は、開いたまま固まった。ゆっくりと扉を背にし、誰もいない廊下に目を落とした。 しばらくすると、兵士が一人やってきて、私とともに扉の前に立った。普通なら、この扉を守るのは一人で十分なのだ。しかし私だけでは不安ということで、私がつくときは必ず誰かが補佐に来るようになっている。彼が補佐とは名ばかりで、要らないのは私の方だ。 「お疲れ、朱灯杏」と声をかけてくれたので、ぎこちなく微笑みを返した。彼らは私に優しい。もしかしたら、彼らも私と同じだからかもしれない。どちらも、紅覇様を愛し、心から紅覇様に仕えている。 また、その存在自体が紅覇様の名を落としている、という点も共通だ。 罪人の一族と、腐った体の魔導士と、役に立たない飾り物を引き連れた、頭のおかしい第三皇子。紅覇様がそう噂されているのは知っていた。 私はそっと目を閉じた。瞼の裏で、紅覇様が冷めた目で私を見据えていた。隣の兵士に気づかれないよう、静かに息を漏らす。苦しかった。紅覇様にあの目を向けられるのは、苦しい。 確かに紅覇様は私を飾った。女らしく髪を伸ばさせ、女らしい色のものを着せ、いつも隣に置いてくれた。だが、私は紅覇様に愛されていない。紅覇様に飾られていながら、紅覇様に気に入られていない。 私が十四のときに、紅覇様の態度が変わった。ちょうど私が、周囲の男たちにも紅覇様にも追いつけなくなった頃だ。それまで優しく私の頭を撫で、明るい笑みを浮かべ、何かと私に構ってくれることの多かった紅覇様が、突然冷たくなったのだ。 私は戸惑ったが、すぐに理解した。私が弱いから、愛想が尽きたのだと。十五になって、その考えは確信に変わった。武人として紅覇様を守るために選ばれた身でありながら、戦に行く実力がない従者を、どう愛せというのか。愛してもらえるわけがない。紅覇様の目は日に日に色を失い、私はいつ捨てられるのかと恐怖していた。いつ捨てられてもおかしくないと思っていた。 しかし、今も私はここにいる。情けをかけられて、ここにいる。 紅覇様は、私が戦に行きたいのは、紅覇様を守りたいからだと思っている。それは間違っていない。間違ってはいないけど……。 目を開くと、窓から覗く曇り空からわずかに漏れる月光が眩しかった。ゆっくりと流れていく雲を見つめながらも、頭に浮かぶのは紅覇様のことだけだ。 14.03.28 |