3ヶ月に1度。
もしくは、お互いの気が向いたその時。
天候に決まりはなくて、晴れの日もあれば雨の日もある。
時間も本当に適当に。

進と2人だけで出かける日がある。

私から誘うこともあれば、進から誘ってくることもある。
どこに行くだとか、何を食べるだとか、そう言った詳細もケースバイケース。

明確な理由もなく気の向くままに出かける訳は、間違いなく、私と進が幼馴染という括りから抜け出せられないからだろう。
抜け出せられないのか、はたまた抜け出したくないのか。

今日の天気は快晴。
5月だと言うのに、気温は26度と見事なまでの夏日となっている。

少し遠くに海を見下ろせる丘の上。
早起きをしたからという理由で作ったサンドイッチと、新緑に育まれたその空間が混ざり合い、一見するとただのピクニックデートを楽しむカップルだ。
残念ながら、カップルではない。
何度でも言うけれど、ただの幼馴染。

私が作ったサンドイッチと、進が作ってきてくれたアンチョビはなかなかの相性だった。
次はピザに使わせてもらう約束を取り付け、親指についたサンドイッチのたまごを舐め取る。

芝生に投げ出されたその長い足を数秒眺め、おもむろにその左足に手を伸ばした。
私の手が触れた左足がゆるゆると膝を立て、高い三角が出来上がる。
曲げても分かるほどの長い足におかしな嫉妬心が芽生え、その立てられた足の太ももに背中を預けてもたれかかった。


「名前の粉料理は相変わらず美味いな」
「なにその粉料理って言い方。
そんな進は相変わらず魚料理だけは上手だね」
「取り柄だからな」
「いい旦那さんになるね」
「名前はいい嫁さんか」


必然的に向かい合う形になって、進の太ももにもたれかかる私を見下ろして当の本人は笑う。4つ目のサンドイッチに齧り付く大きな口どころか、その口の端についたパン屑にさえ愛しさを覚える自分が悔しい。

手を伸ばしてパン屑を取り払ってやっても。
そのまま頬に触れたとしても。
綺麗に刈られた後頭部にその手を回して、できる限りの力で引き寄せても。

サンドイッチを食べたばかりの口が触れ合っても。


「……幼馴染でしか、ない?」


背中に触れる太ももが、僅かに震えた。

進以外に手料理を振舞ったりなんてしない。
いくら幼馴染でも、簡単な気持ちでキスなんてしない。
私がお嫁さんになりたいと思うのも、きっと進だけだ。

もう、幼馴染という枠組みにいるのは疲れた。

私は、幼馴染という括りから抜け出したい。

驚きに見開かれた目を見つめていると、もたれかかっていた足に強く背中を押される。
気付くと今度は逞しい腕が背中にまわされていて、進の香水の匂いが鼻先で強く増した。


「なんで言っちまうかねぇ」


よく知る匂いなのに、なぜか知らない匂いのように感じて、押し付けられたジャケットから少しだけ顔を上げる。
けれどそれ以上の動きは許さないとでも言うように、耳朶に生暖かな抑制が触れた。


「幼馴染じゃなくなったら、今まで以上に名前を独り占めしたくなっちまうだろ」


直接吹き込まれたそれは、外耳道を通って鼓膜にじわりと染み込んでいく。
思わずびくりと肩を震わせれば、喉から笑った音がまた耳の中へと入り込んだ。


「…いいよ、そうなったら進のためだけに粉料理作ってあげるから」
「それは独り占めし甲斐があるな」


次からは胸を張って言える。
これはピクニックデートだと。







×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -