なんて可愛いんだろう。
なんて綺麗なんだろう。

似たような言葉しか浮かばない自分に驚くこともなく、映画を鑑賞する時と同じようにただ目の前の光景を眺める。
夏の日差しで焦げた砂浜が熱かったけれど、そんなことすらどうでもよくなった。

熱を孕んだ砂の粒たちなんかよりも、何よりも頬が熱かった。


「錫也先輩!」


白くて細い腕が、大きく左右に振られる。
風に揺れるスカートの向こう側に、白いヨットを一艘見つけた。

腕を振り返せば、彼女は嬉しそうに笑う。
それからすぐに、服が濡れるのも構わずつま先で海を蹴り上げてははしゃぎまわっていた。

夏の青い空がとてもよく似合う女の子だ。


「名前」


消えてしまいそうで、まるで蜃気楼のようだと思った。


どこにも行かないでほしい。


軽く名前を呼べば、彼女は砂を散らせて俺の元へと駆けて来た。
何も言わずにその場に腰を下ろせば、それに倣って彼女も隣に座る。

潮風に乗って届くシャンプーの香りが、どうしようもなく胸を締め付ける。
抱きしめたい。

額に薄っすらと掻いた汗を拭うその手が、太陽の日差しを受けて白く輝いている。
握りしめたい。


「楽しむのもいいけど、ちゃんと水分取れよ」


こいつの前ですらも、俺は保護者のようだと苦笑いを噛み締める。
小さく喉を鳴らして慌てて水を飲む名前に、零し損ねた苦笑いが自然と笑みに変わった。

細い髪が、風に撫でられてふわふわと漂う。
その髪に触れるフリをして、俺は彼女の肩にそっと触れた。
驚いた声も、愛しく思う。


もっと、傍に来て。


肩を寄せ合えば、名前は両頬を赤くさせた。
互いに汗ばんだ肩が触れれば、広がる波紋のような揺らめきが心のなかを満たす。


人魚姫とみたいに、どうか海に戻らないで。
ずっと俺の隣にいてほしい。


きらきらとこめかみに光る汗は、さながら小さな真珠のようだ。
その真珠に、そっと唇を寄せる。
まるで海の水をつれてきたみたいに、少しだけ塩辛かった。







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