ああ、なんて居心地のいい特等席なのだろう。
寮で部屋主の帰りを待つベッドよりも、実家の慣れ親しんだベッドよりも、心から落ち着き体を存分に預けられるお気に入りは、いつからかここだった。


「いい天気だなぁ」
「にほんばれだねぇ」


パルデアにはピクニック文化が強く根付いていると言っても過言ではなく、そこかしこでトレーナーをはじめとする国民がピクニックに勤しんでいる。
ピクニックテーブルでのんびりと食事を楽しむ光景もあれば、豪快に草原に寝転がり、昼下がりの休息を貪るのもまた一興。
通りすがりのトレーナーとの交流を図る者もおり、まさに人の数だけピクニックの様式が垣間見れた。

パルデアの人間らしく、名前とペパーにとってもピクニックの時間は取り分け特別だった。
ペパーはサンドウィッチ作りに精を出す過ごし方を、名前は食事もそこそこにポケモンとのふれあいを大事にするスタイルを、早い段階から確立させていた。

いつのことだったか、名前が自らのポケモン達を優しく綺麗に洗い上げていたところに、偶然ペパーが通りがかったのがきっかけだった。
花柄のクロスが揺れるピクニックテーブルに広がる質素なサンドウィッチを目にしたペパーと、そんなペパーの制服の汚れを目敏く見つけた名前の利害が一致したのだ。
その日から二人は近場にいればピクニックに誘い合うようになり、ペパーは食事係を買って出て、名前はポケモンや衣服の汚れを綺麗にする役割を担った。

そんな恒例となった行事も、回数が重なれば遅かれ早かれ変化の色を滲ませる。
今になって思えば、一度目のピクニックから既に始まっていたのかもしれない。

「近場にいれば」がいつしか「どこにいても」へと変わり、12回目のピクニック───何せペパーのピクニック好きは筋金入りで、名前も名前で頻繁にポケモンと戯れる時間を設けたがったのだ───で互いの感情が同じものだとそれとなく感じ取った二人は、15回目のピクニックでその答え合わせを行った。
パルデアの人間には情熱的な人間が多く、漏れなくパルデアの血が体内に流れているペパーも存外積極的な男であり、初めて唇を寄せ合ったのもそう遅くはない頃だった。

そんなペパーが持ち合わせる意外な要素を特筆するとすれば、ポケモンバトルが苦手という点だろうか。
がっしりとした体躯はただ単に彼自身のフィジカルへの付属でしかなく、名前のように捕まえたポケモンを育成するという行為も最低限しか行わない。
いつも前線に立つのは名前の役目であり、ペパーはそのサポートにまわることを好んでいた。

「彼氏としての面目丸つぶれちゃんだな」などと自嘲しつつも、自身の弱みを受け入れ素直に適材適所の動きが取れる姿勢に名前は好感を抱いている。
そしてもう一つ、ポケモンバトルには活かされることのないペパーの体を背もたれに、青空の下で微睡むことが何よりもお気に入りだった。
どれだけ体重をかけてもたれかかっても安定している体と、胡座で描いた三角形の空間はチルタリスの羽毛に包まれているような安心感を与えてくれた。

名前が立てた膝の上に大きな手が乗れば、体を捻ってキスをする。
のびのびと過ごすポケモンの一匹でも傍に寄ってくれば、ペパーも膝を立ててその特別な空間にポケモンを招き入れる。
声にして決めたわけでもないルールのような流れが、日を重ねるたびに増えていった。


「昔さ」
「うん?」


ペパーが体勢を変えれば、名前の上体が僅かに揺れた。
風に晒されて冷えた膝の頭を、体温のこもった手が撫でる。
その手つきに下心の類いはなく、ただただ自身に寄りかかる温もりを確かめるようなものだった。


「……いや、なんでもねぇ」
「なに?気になるよ」
「こういうシチュエーションに憧れてたっつーこと」


ペパーの腕に巻き付いて続きを催促する名前の手を絡め取り手の甲に唇を押し付ければ、今度は小さな頭がぐるりと反転して互いの隙間から可愛らしいリップ音が鳴る。


「私はポケモンバトルで支えるから、ペパーはこうやって私のこと支えてね。私の大好きな場所なの」


このまま昼寝でもしてしまいそうだ。
そんな居心地のいい胸板に再び頭を預け、名前はお腹によじ登ってきたピチューを柔らかく抱き締めた。


「……言われなくてもわかってるよ」


学校指定のベストを突き上げて後頭部を震わせる鼓動の音に身を委ね、名前はそっと目を閉じて惰眠を貪りにかかった。







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