「千愛、ちょっと頼みたいことがあるんだけど‥」
「‥? はい」
ボンゴレ邸 奥の奥のずっと奥に位置する部屋
そこにはしっかりとした造りとは全くもって似つかわしくない貼り紙がこれでもかと言うくらい堂々と扉に貼られていた。
そこにはお世話にも上手いとは言い難い乱雑に書きなぐられた「不在」の二文字。
その文字をまじまじと見ながら彼女はため息混じりにも小さく笑みを浮かべ、誰も居ない筈の部屋に向かって律儀にコンコンとノックをする。返事がないことも気にせず扉を開けた
「ボス、字が汚すぎます。どれだけ自分が居ない間も恥を晒す気ですか」
「待って千愛、部屋に入って第一声がこれはひどくない?」
人の部屋に入る時は失礼しますが基本だからね、ソファーにうなだれるようにして座っているボスは諭すように話しながらも どこか表情は微笑んで見える。
「っていうかどこが不在なんですか。ばっちりいらっしゃるじゃないですか」
だいたい呼び出しておいて不在だったら怒りますからね、そう言うとボスはあはは‥と頬をポリポリとかいた
「大体なんで貼り紙ですか?」
「んーちょっと魔除けみたいな?」
「は?」
「いやいやこっちの話。ところで頼んだものは持ってきてくれた?」
早く早く!と急かすように両手を前に差し出してボスはニコニコと微笑む。 その表情は青年とは思えない プレゼントを待つ無邪気な子供のように見え、この人がボンゴレという格式高い組織を仕切っているのかと思うと 千愛は無意識に荷物を持っていない片方の手で軽くチョップしていた
「痛っ!?」
「あ、すみません つい!‥はい、これどうぞ」
「(つい手が出ちゃったのか‥)うん ありがとう」
手のひらに乗せれるだけカラフルなキャンディを渡すと ボスはグレープ味の包みを開け口の中に入れると甘味と匂いが広まる
「懐かしいな」と微笑みながら口の中をゆっくり転がしていく
「ですが急に飴なんてどうしたんですか?」
「あはは‥なんて言うか、」
少し 息抜きしたかったっていうか、何というか。
ごにょごにょと下向きがちに困ったように小声で話すボス。
そういえば最近は書類や同盟マフィアとの会合が多く、ろくに休息も出来ていなかったかもしれない。 私も何日も仕事詰めだとどこか遠くに行きたくもなるが、この人はそれが出来ない方だ。
食事は栄養のバランスを考えて作られているから栄養失調にはならないかもしれないが、精神面やストレスはどうやって良好にするのだろう?改善できる時間も限られているなかで
ボスは何を支えに日々を過ごすのだろう?
「‥‥私に」
「ん?」
「私になにか出来ることはありますか?何をすればお疲れのボスを癒すことができますか」
「‥千愛」
少し驚いた顔を見せたが「俺は大丈夫だよ」とボスは優しく微笑む。その言葉を拒むように表情を曇らせれば、ボスは困ったようにまた笑った
「んー‥じゃあね、俺の隣に座って欲しいな」
「隣に‥ですか」
「そう。隣に座って、一緒に飴食べて お話しよ?」
千愛が傍にいて笑ってくれたら、それだけで頑張れるからさ
そう言いながらボスは隣の位置を軽くたたき 手をさしのばした
僕の隣においで
「は…恥ずかしいです!」
そんなの出来ないです!とその場を離れようとすれば「どっか行ったらもっと恥ずかしいことするかもね?」と耳元で囁かれ、言うんじゃなかったという後悔も遅く ますます顔に熱が灯った。
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