いつの間にか十代目とは別の意味で、目で追うようになったヤツがいた。
教室の中でも彼女の声が耳に一番に届いて。気づかれないように横顔を覗いて、
不意に振り返る千愛から目を反らした。



きっかけは単純なことで隣の席だった千愛が数学の授業で先生に当てられた。聞いていなかったのか はたから見ても明らかにテンパっていて、涙目になっていたのを見兼ねてこっそりと答えを教えた。



「ありがとう獄寺くん」

たった一言。何気なく言われたありふれた言葉が 君の笑顔が
俺は頭から離れなくなった。


あれから少しずつ会話をすようになり 俺は自然と千愛が興味を持つような話題を探すようになった。だけど好意を持っていることに気づかれたくなくて。俺は横顔を見ては、また目を反らした。





「獄寺くん、あたしのこと 嫌い?」
「…は?」


急に何を言いだすんだ、俺が?そんなことあるはずないじゃないか。
呆気にとられて千愛を見ているとまたポツポツと話し出す。


「だって、目 合わせてくれないじゃない」
「…勘違いだろ」
「…そんなことない」


ずっと見てたから。わかる。そう言って真っ直ぐな千愛の瞳と目が合う。
なんだよその言い方。それじゃ、まるで千愛が俺のこと見てたみたいだろ。



「あたしと話すの、実は嫌だったりした?」
「んなこと言ってねーだろ」
「だって態度が!…そうじゃん」
「違う!」



「そうじゃ、…ねーんだよ」



俺は、きっと怖いんだと思う。

(なんでたった一言、言えないんだよ)




「千愛」


俺は 見てるだけで、たまに話すだけでもいいと思ってたんだ。



だから、


「すっげー・・嬉しかったんだ」



「好き」だなんてまだ言えないけど、
この気持ちは届くだろうか




「…ふふっ、何それ」
「バ、…バカ笑うな!」
「だって獄寺くんが、」


「すっごく可愛いから」千愛はえへへと笑って無邪気な子供のように俺の周りを駆ける素振りをみせる。



「ねー獄寺くん!」
「?」
「もう2月になったね」
「あ?おう、そうだな」


「甘いの、好き?」そう言っていたずらっぽく君が笑う。
一瞬なんの話かわからなかったけど、2月で甘いもの…と言葉に出して呟いてみたら。1つの心当たりに心臓が思わず跳ねてしまった。


「もれなく気持ちもたっぷり込めちゃうよ?」
「なっ…」


思わず出た言葉にもならなかった声を飲み込むように慌てて口元を抑えたけど、
そんな俺に千愛も気づいたようだった。千愛は目を細めて、「言っちゃった」と舌を出して微笑んだ。楽しそうにしやがって、絶対俺のこと遊んでやがる。

けどその表情にもまた高鳴りは増して 自分でも情けないぐらいみるみる頬が火照るのが分かった。

ああ、君はなんてずるい。




「す…、好きに決まってんだろ!」



そういう顔は卑怯だ
(きっと君には俺が答える言葉なんて、お見通しなんだろうな。)




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