いつの間にか年が明けて。短かった休みも終わると学校の中では休み呆けにでもなったようにふわふわしている奴と将来の分岐点ともいえる勝負の日の為に1年間を費やした勉学のラストスパートを必死に掛けている奴、まるで2種類の人間に別れたかのような空気が漂っている。

これもきっと季節特有のものなのだろう。



(いいなぁー学校早く帰れて)


机に頬杖を付きながら横目で窓からこっそりと下校する先輩たちを見送る。そんなことぼんやり考えながらでも目線は慣れたように人混みを掻き分けてある先輩を探す。

他の先輩たちと違って制服が1人だけ違うからどんなに人が多くてもすぐに見つけられる自信がある。…まあそんな違いがなくても見分ける自信はあるのだけれど。


ずっと見てきたんだから、そこは胸を張っていいはずだ。



(あ、居た。)
「さっきから何見てんの?」
「わあ!!…ってなんだ、綱吉か」
「なんだってなんだよ。感じ悪いなあー」
「だって急に話しかけたらびっくりするじゃん」



もー、と言って笑っていると思わずはっと我に帰ったように慌てて視線を窓の向こうに戻す。目を凝らせば先輩はまだここから見える所に居てくれたみたいでお気に入りの小鳥と戯れているようだ。

他の先輩たちと一緒に笑ってるところなんて見たことがないのに。動物好きなんて、ちょっと可愛いじゃない。





「…千愛ってば」
「んー…」
「ちょっと、」
「待ってってば。あと少しだけ」
「待つってあとどのくらい?」
「んー…もう少しだけ」


「…ダメ。もうお終いだよ」



「え?」と聞き返すのと同じぐらいのタイミングで手を強い力でいきなり引っ張られた。おかげで頬が支えを失ってガクン、と呆れるような格好になる。

困惑を隠せないまま綱吉を見れば彼は窓の外に目を向けていて、その目線を追うように私もその先を見れば先輩が欠伸をしながらどこかに行ってしまうところだった。


呆然とする私の前をただ景色だけが無情にも過ぎていく。いまだに綱吉は黙ったまま。


「・・・」

ワケが分からないと引っ貼られた手を解こうとしたけど、ぎゅっとさらに握られてしまいそのまま手をつなぐようになったまま 熱を帯びた。そんな気はないのに意思とは別に意識がどんどん集中してしまい、体中が熱っぽくてクラクラする。


綱吉の顔が、うまく見れない。




「もう先輩も卒業していなくなるよ。そしたら千愛どうするの?」
「どうするって…、」
「告白するの?」
「…なんでそんなこと」
「いいから」
「……、そんなの」


綱吉には関係無いじゃん。そう言葉にしようとして顔を上げると、綱吉がなぜかとても哀しそうに微笑んでいたから。まるでズキズキと音を立てて私の胸を締め付ける綱吉の瞳に、私は不安でたまらなくなって思わず声を失ってしまった。



...余所見ばっかしないでさ、


「いい加減、俺のこと見てよ」






(待っても待っても君はどんどん離れていくから。もう自分で捕まえることにしたよ)






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