マッチ売りの少女は小さな明かりを手元に灯した。
それは少女が焦がれた たくさんの言葉のない想い。

叶わないと知っていても、少女の抱いた光には 夢が溢れていた。






はぁ。と深く息を落とす。白く色ずいたそれを見ると、とっさに両手で口元をおさえた。もう一度 今度はゆっくりと息をはいて手のひらで熱を捕まえる。だけどそれは一瞬のことで すぐにそれは逃げ出してしまった。


「そして誰も居なくなった。…みたいな?」
「なに馬鹿なこと言ってんだ」


遊んでないで早くノート写せよ。目線を手のひらから声の主に向ければ隣の席で迷惑そうに私を見る隼人。周りもぐるりと見回せば仲良し組みのツナくんや山本も居なくなってて教室にはあたしが走らせるシャーペンの音だけが無性に大きく響いていた。いつのまにか、2人だけになっていた。

あーあ。この絶好の状況にほんの少しだけドキドキして胸がぎゅうってなっちゃう乙女心なのに、隼人も荷物全部まとめちゃってるし 今にも帰る準備万端って訳ですか。



「いーなぁマフラーに手袋なんて完全防備じゃない?」
「だって最近寒いだろ」
「でもみんなまだそこまでやってないよ」
「自分の防寒に他人なんていちいち気にしねーだろ」
「そりゃそうだけどさ…」


私なんてカーディガンだけなのにな。それに頻繁に漢字を間違える私にさえ優しく「僕は消せるから大丈夫だよ」って微笑みかけてくれるシャーペンも寒い日には持つのでさえ凍えるように冷たく牙を向けて私をあしらうってのに…

指だってこんなに赤くなっちゃって きっと頬に触れれば心臓も飛び跳ねるよ、絶対。


「ほれほれ、ハーヤト」
「は?…って、うわっ!てめ、」
「あははは!」
「バカ千愛!クソ、冷てぇ…」
「ふふふ 冷え症の苦しみを味わえ!」


身を乗り出したように狙いを定める私に 耐えられない様子で必死に抵抗する隼人。3回ぐらい顔に手をくっつけてやったぐらいで隼人は急に黙り込んで抵抗しなくなった。
あ、やばい。隼人怒っちゃったかな…。 ごめん、と言葉にしようとしたら不意に顔を上げた隼人と目と目が合って。思わずドキッっと跳ねた。それでも彼は動じてないようで考え事でもしているのか微かに「…冷え症」とだけ呟いた。


「…なあ千愛」
「なあに?」
「ほら、手出せ」






「あ」




言われるがまま手を出してみたら手を掴まれて軽く引っ張られた。そのまま握られた手は痛くない程度に力が入っていて思いもよらないその一連の出来事に 目線も外らせないあたしには振りほどくことなんて到底出来そうになくて

どんな顔してるか覗こうとしたら こっち見んな、って隼人はそっぽを向いて見えなかったけど、うん。銀髪から微かに見える耳が真っ赤だよ。

でもそれにつられて あたしもきっと真っ赤だ。



さっさと終わらせろ。待っててやるから




これじゃ上手くノートとれないよ、バカ。






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