きらきらと眩しいくらいに太陽が輝いていた月日が終りを告げるように蝉の鳴き声が聞こえなくなり、黄色の花は新らしい未来に向けて種を落とした。
涼しいと感じるようになった夜、ベッドの横にある窓から入る月明かりの ほんのりした灯りを頼りに はらり、とページをめくる音が静かに部屋に響く。色褪せたアルバムの表紙は母さんの字で書かれた「綱吉・中学時代」の文字。 いつの頃からか少しかすれて読みずらくなっていた。
それでも関係ないとでも言うように写真の中の俺らはどれも時間の経過を感じさせない、あの頃と変わらない笑顔を俺に向かって咲かせていた。
また1ページ、はらりとめくれば写真の中の俺は獄寺君と山本と、千愛と一緒に屋上でご飯を食べていた。そこにはリボーンもなぜかいて俺の弁当を奪っているところのようだった。皆は笑っているけど、俺はそれどころじゃない様子で必死に訴えをお越しているようだ。
ダメツナと呼ばれていた頃とはいえ赤ん坊に弁当を取られているなんて、今考えても情けない。
「ははっ、みんな楽しそうだな…」
そう無意識に言葉に出していたことに思わずはっとして、隣に眠る彼女に目を向ける。 少し声が大きかったかもと心配になったけど、どうやらそうでもなかったらしい。俺に背を向ける彼女の表情は読み取れないが先ほどと変わらない寝息を立てて俺に寄り添っている。ああ よかった、今の独り言は誰にも聞こえなかったらしい。
誰しも戻れない夏がある。今更わかりきったことだど笑われるかもしれないけど、今の俺にとってこの頃の日々は宝物そのもので
ほんの僅かな出来事だったとしても
もう少し 大事に生きられたかもしれない。
写真の中のような無邪気な関係だった俺らも今じゃマフィア。仲良し三人組と言われていたのも過去の話。確かに今も仲はいいけど「遊ぶ」という言葉はいつからかもう使わなくなった。
ボスと守護者。上司と部下。あの頃からの関係の変化で得をしたことと言えば千愛と恋人同士になれたことぐらいだろうか。
はあ。静寂の部屋を溜息が支配する。 それと同時に目に付くのは、あの頃から肌身離さず所持している小さなリング
皆を、仲間を守りたいと誓った力。
だけど上手くはいかなくて、現実は厳しかった。
大切な物を守るために、大切な「何か」が傷ついた。目に見える傷だってそうだ。みんな笑ってごまかしてはいるけど みんなを支える大切な人たちだって傷ついていた。言葉や表情に出さなくても、俺には わかるから。
「.....」
「綱吉?みんな呼んでるよ」
「…ああ、今行くよ」
呼ばれた声に微笑み返す。歩み寄る足は微かに震えていて、 力を抜いた手のひらに残るのはいつも達成感や満足感でもなく「罪悪感」だった。
皆を守ると誓ったのは自分自身。手にしたのはその為の力(リング)だった。 だけどその力で本当にみんなを守れているのだろうか? あの頃の笑顔を、守れているだろうか?
「…」
「 つなよし?」
彼女は俺の視線に気づいたらしくこちらにゆっくり寝返りをうった。まだ寝てていいんだよ?頬に流れた髪の毛を指ではらうとくすぐったいのか寝惚け眼の目を細めて千愛は微笑んだ。あの頃と変わらない、笑顔。
ああ、そんな顔したら俺の顔も 緩んでしまう。愛しい なんて、思ってしまう。
…よかった。
ん、どうした?怖い夢でも見た?
ううん、綱吉がね 笑ってたから。綱吉はね、笑ってたほうが 似合うんだよ?
…ははっ、そうだね。俺には こっちの方がお似合いかも
あの頃から何年経っても、不安に潰されそうになる夜もある 逃げ道を探してしまう自分もいる。 笑顔の多い日ばかりじゃない。
耳を塞いでも 目を塞いでも
それでも、
世界は優しいとわらった人 (どんなことがあっても) (君がここにいてくれるなら)
もしこんな物がこの世になければ、少しは争い事がなくなるのだろうか。誰かが泣くことはなくなるだろうか。
俺でも 幸せを、手にすることが許されるだろうか。
「…きっとみんな怒るだろうな」
足の震えを隠してでも、俺は前に進もうと思う。
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