「あーつーいー」



じりじり熱い太陽

コンクリートからは熱気。あ、遠くの景色が揺らいで見える。そういえば足元がふわふわするなあ、今日テレビで熱中症で倒れた人がいたと知らせていたけど、このままだと私も仲間入りするかもしれない。



何でこんなことになっているかと言うと、我らがボス兼恋人の沢田綱吉様がお出掛けしているお屋敷に急遽来いと言われたからで。

任務も丁度終わったぐらいだったからまあ良かったけど、私1人が行って相手の方に「誰?こいつ」と白い目で見られるのは気まずくて仕方がないけど。




あーどうしようどうしよう何か考えてたら凄く行きたくなくなってきたような…でもボス命令だし。
行かなきゃ怒られるしなー。またヴァリアー邸に雑用として送られたら嫌だしナイフの的も嫌だしザンザスさんの不機嫌に怯えるのも嫌だし…


あれやこれやと想像していたら気分が悪くなった。
ダメだダメだ!と頬を軽く叩いて気合いを入れボスが待つであろうお屋敷の敷地内に入る。


ボンゴレ邸には及ばないが結構広い。
これはメイドさんに訊くしかないかな、と辺りを見回し目に飛び込んできたのは やけにメイドさんが密集している地帯。よく見れば一人一人の顔がニヤケ‥赤く染まっていてどこか挙動不審だった



「‥‥まさか」


その中心の所にゆっくり近づく。
次第に鮮明になってくる聞き覚えのある男性の声と知らない女の笑い声にどこか胸にムカムカが増していく。
それを払い除けるようにすれ違うメイドさんからは邪険な視線が痛々しく突き刺さる、

まさに「誰?こいつ」と言わんばかりに




‥ヤバい このままじゃたどり着く前に心が折れる。


「ボ、ボス!」

「!‥千愛?」



ここです!と両手を上げて跳び跳ねればボスはメイドさんをかき分け私を見つけてくれた。やっぱり、と思うのと同時にそれを見ていた彼女達は残念そうに仕事に戻って行った。‥一瞬舌打ちが聞こえた気もしたけど、うん きっと気のせいだ。



「千愛よかった〜来てくれて!屋敷の外で待ってようと思ったら急に囲まれちゃって‥」


「そ、そうですか。でも意外と喜んでたりするんじゃないですか?…ここのメイドさん可愛かったし」



以前の時みたいに寄せ付けなかったらいいのに。ポツリと小さく呟いたのに、

ボスには聞こえてしまったみたいだ





「なに、妬いてくれるんだ?」


「なっ 違います!‥とっ、ところで用件はなんでしょうか」

「ん?ないよ」






「‥‥へ?」


「俺が千愛に会いたかっただけだから」



千愛が任務続きでなかなか会えなかったし。たまにはドラマみたいに出張先で待ち合わせして会うってやってみたかったんだよねー


「そのシチュエーションは愛人に対してでしょうが!」

「えー?」



ニコニコと満面に笑う。
‥全く、この人はわかってやってるんだろうか



私だってちょっとくらい、
不安にだってなるんだから




「‥、あの」


「大丈夫」





「千愛、愛してるよ」



私の手をとり歩き出した恋人の背中を見て、散々言いたかった小言も喉に引っかかった。



「‥」



「ただいま」



「おかえり、なさい」





「‥もう、バカボス」

「はいはい、ごめんね?」

「‥帰りにアイス買ってください」

「はいはい」

「ちょっと高いやつ!」

「ははっ、りょーかいしました」





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