夕焼けに染められたブランコを横切り公園を後にする。慣れ親しんだ道のりを一人 青年が花束を抱え歩いていく。


散る花びらが 笑うようにそっと風に舞う。風の優しさも、あの頃と変わりない




あれから10年が経って
また君に逢いたいと思った






「ねえ、綱吉くん」
「‥ん、」

「今日はありがとうね!買い物に付き合ってもらっちゃって」

「そ、そんな気にしなくていいよ!」



今日は1日千愛ちゃんと買い物をした。俗にいうデートというやつで。
付き合ってはいるものの未だに慣れない2人だけの時間に緊張しつつ、意外にもゆっくりと過ごすことが出来た。だけど時間はあっという間に過ぎていって。





「‥今日ね、すっごく楽しかった」



「‥俺もさ 千愛ちゃんと買い物できて、すごく楽しかった」



慣れないけれど、それさえも心地よくて



隣を歩く彼女の指先に触れる。一度は離れた手のひらは次第に重なり 2人の影はひとつに繋がった




あたたかいね、そう漏らせば彼女は恥ずかしそうに笑う




「こんな風にずっと‥、一緒にいられるかな」

「‥」



よく2人で寄り道した公園で ブランコの鎖に手を伸ばした彼女は呟いた



「はは、‥なんてね」



彼女はどこまでも続いている空を見上げた







俺らはもう子供でもなくて、でもまだ 大人にもなりきれなくて



ポケットの中にあるイタリア行きの飛行機のチケットを手渡すことが出来ないまま ただずっと握りしめる




「俺 は、」



言葉の代わりに、触れるだけのキスをした





「‥俺は、千愛ちゃんと一緒に居たいって、思ってる」





「‥ありがと」



臆病な俺だけど、

頬を染めて笑う君が 好きだった









次の日に鳴り響いた携帯電話

君の携帯からで、でも声は京子ちゃんで



「あれ‥京子ちゃん?どうしたの、」

「…っ、 ぁ」


言葉にならない声はただ震えるばかりで、いつまでも彼女の名前を呼んでいた。

「千愛ちゃ んが…、」


名前を聞いただけなのに何故か無性に胸騒ぎがして

俺は走り出していた




凄く息が切れて

足元ももつれるばかりで上手く走れなくて


だけど君を失う気がして


胸の奥で君の名前を叫んだ








君はいま、何を思っていますか?。

久しぶりの再会に驚いて 喜んでくれますか?





(俺は今でもあなたが好きです)



声は届いていましたか?








「事故」なんて言葉で君をかたずけたくなかった。



認めるなんて出来なかった

だけど君の姿はもう何処にもなくて

ただそれが悲しくて





10年の月日が経っても この町の景色はなにも変わらない

どこまでも続く空の色もあの時のままで

君がここにいないだけ





「会いに来たよ」


あなたは元気でやっていますか?




墓碑の脇に添えられた白い花が 静かに揺れていた






この空が君のところまで繋がっていますように。




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